水田は、周辺地域の気温の上昇を緩和しているが、 その効果は大気CO2の増加により低下する

水田には日中の気温上昇を緩和機能があることは既往の研究で明らかになっているが、今回稲の気孔応答などを数値モデルに反映させることに成功した。その結果、水田の気温上昇緩和機能の数値を見積もることに成功し、一方で大気中のCO2が増加することでその効果が低下することもわかった。

 一般的に植物は気化冷却(水が蒸発する際に熱が消費されることで、蒸発面の温度が下がること)により晴天の日中には周辺の気温を下げることが知られている。一方で、大気中の
CO2が増加することで植物の気孔の開き具合が低下することで、気化冷却の効果が薄くなることも明らかになっている。そのような背景から水田の気温上昇緩和効果もCO2の増加により、その効果が薄くなることが予想されてきた。
 そこで、農研機構と北海道大学低温科学研究所は、水稲の気孔応答による温度の変化と上空の大気層との相互作用を考慮した、大気-水田生態系結合モデルを開発し、関東付近の市街地を含む水田が広がる地域を対象にシミュレーションをおこなった。その結果、現在の夏季の典型的な晴天日における水田の日中の最高気温は、対象とした地域の市街地と比べて2°Cほど低くなることが示された。しかし、大気CO2濃度が倍増した条件では、水稲の蒸散が減って気温上昇抑制効果が減り、水田の気温は0.2~0.7°C(平均で0.44°C)ほど現在よりも上昇することがわかった。市街地では水田の気温上昇の影響を受けて平均で0.07°C上昇しますが、市街地のうち水田地帯に隣接するような場所では最大で0.3°Cほど気温が上昇すると推定された。

概要
・現在のCO2濃度条件で、水田では、市街地と比べて日中の最高気温が2°Cほど低くなる。
・大気CO2濃度を倍増させた条件では、水稲の気孔開度が小さくなり、水田地帯を中心として広域的に日中の最高気温が上昇する。
・水田と市街地の両方が含まれる地点(3km四方)を抜き出して比較すると、大気CO2濃度が倍増し、水稲の気孔開度が小さくなると、水田の日中の最高温度が0.2~0.7°Cほど(平均で0.44°C)上昇し、市街地では日中の最高気温が最大で0.3°Cほど(すべての周辺地域の平均で0.07°C)上昇する。
・大気CO2濃度の倍増時に水稲の気孔開度が小さくなることによる地域全体の昇温は、現在の条件で水田面積がおよそ1割減少したときの昇温量とほぼ同等となる。

本成果により、水田では市街地と比べて日中の気温が低く保たれているものの、大気中のCO2濃度が上昇すると、「水田の気象緩和効果」が低下し、水田地帯を中心とした広域の気温が上昇することが示された。このことから、将来、大気中のCO2濃度が上昇すると、温室効果による高温化と相まって、夏季の高温によってお米の品質低下や、不稔などの障害リスクが増加する可能性が示唆される。なお、高CO2条件下でも水田上の気温は市街地の気温よりも低く保たれるため、もしも水田の作付面積が減少すると、地域全体の平均的な気温は上昇すると考えられる。本成果では、水稲の気孔応答のみを考慮したが、CO2濃度増加により、森林など他の植生も変化すると考えらる。今後の研究では、地球全体での温暖化や他の植生の応答なども考慮し、将来の気候下における水田の気象緩和機能の影響をより詳細に調べる予定。