ドローン空撮画像を用いた水稲生育量の調査法を開発

 農研機構は、水稲の生産量をドローン空撮画像を用いて調査する手法を開発したと発表した。従来の目視による調査に比べ、1/20の作業時間で、より客観的な結果が得られる。生育量は作物の生産性に関わる重要な特性の一つだが、環境の影響を受けやすく、また客観的、効率的な計測が難しいため、これまで正確な選抜ができず、品種改良のネックになっていた。今回、開発した手法で収集したデータとDNA分析を組み合わせることにより、水稲の生育量に関わる遺伝子を染色体上の4カ所に特定した。これらの遺伝子を活用し、今後、生産性の高い水稲品種の育成が効率化すると期待される。

無人航空機の一つであるドローンは、遠隔操作や自動航行が可能で様々なセンサーを搭載できるため、薬や荷物の宅配や大型工場内での危険個所のモニタリングなど、幅広い用途で利用されている。農業分野においても、水田全体の作物の生育量や葉色の違いに基づく生育診断や農薬散布などへの利用が試みられている。数千~数万と多数の個体について個別に特性を調べる必要がある品種育成では、生育量や形態の違いを効率的、かつ正確に評価する方法が求められており、ドローンの活用による技術改善が期待される。

 水稲の生産性向上は我が国の農業における課題であり、生産性の高い水稲品種の育成が求められている。作物の生産性に関わる生育量は、品種改良における重要な特性の一つだが、目視での調査では、経験の度合いに左右され客観的なデータを得ることが難しく、多数の個体の調査には多大な労力と時間が必要となる。ドローンを用いることで、水田に入らず上空からの撮影によって生育量を短時間で調べられ、画像から一律の基準で生育量を数値化できることから、これを用いることで生育量に着目した品種改良を大幅に効率化できると考えられる。一方で、生育量は施肥量や気温など環境の影響を受けやすく栽培場所や年によって異なるため、仮に正確な値を得られたとしても、その差は必ずしも遺伝的な能力を反映したものではない。したがって、品種改良を効率化するためには、生育量の違いを正確に把握したうえで、これに関係する遺伝子を見つける必要がある。 最近の水稲品種の改良では、「コシヒカリ」などの日本型品種とインド型品種とを掛け合わせ、インド型品種の持つ有用な遺伝子を日本型稲に取り入れることも多くなっている。農研機構では、各々4種類の日本型品種とインド型品種、合計8品種をそれぞれ交配して集団を作出し、改良に役立つ遺伝子を効率的に探索する方法を確立している。ドローンの空撮画像を用いてこの集団を構成する多数の個体の生育量を調査することで、生育量に関わる遺伝子を探索した。

水田に一切入らず短時間で水稲の生育量を調査可能
 ドローンを10~25mの異なる高度で運航し、搭載したデジタルカラーカメラで初期生育期の水稲を撮影した画像を比較したところ、高度10mにおいて植物部分を最も明瞭に認識でき、生育量の調査に適していることがわかった。高度10mで約10分間の撮影によって得られる約200枚の画像から、位置情報を用いて10aの水田全体を一枚の画像としてつなぎ合わせた。つぎに、その画像の中から水稲の種類ごとに画像を分け、各々の生育量を数値化した。一律の基準で画像からの数値化を行うため、客観性の高いデータを得ることができる。これを水田の中を歩きながら目視で調査する場合、10aの水田で栽培する400種類の稲の調査する場合3時間以上かかるが、ドローンを用いるとその作業時間を約20分の1に削減できる。また、目視の場合、植物を見る角度や高さは調査ごとに異なり、経験の度合いも計測値に影響する可能性がある。本技術を用いることで、水田に入ることなく、水稲の生育量を短時間で正確に調査することが可能となる。

生育量に関わる4カ所の遺伝子位置を特定
作出した集団(植物体の大きさなどの特性が異なる各々4種類の日本型品種とインド型品種、合計8品種それぞれの交配に由来する集団)の約3,000個体について、生育量の調査を行い、DNA分析データと組み合わせ、生育量との関連のある遺伝子を特定した。その結果、生育量に関わる遺伝子は第1、第4、第7および第9染色体上に1カ所ずつ、合計4カ所にあることがわかった。第1、第4、および第9染色体ではインド型品種のもつ遺伝子が、第7染色体上では日本型品種のもつ遺伝子が生育量を増加させていた。更に、生育量と他の特性との関係を調べたところ、生育量を高める遺伝子を持つ稲ではバイオマスが増え、一部の遺伝子では子実収量を増加させることがわかった。

 本研究では、ドローン空撮画像を用いて水稲の生育量を効率的に調査する方法を確立した。これを活用して4カ所に見いだされた生育量に関わる遺伝子について、DNAマーカーを用いた選抜を行うことで、今後、生産性の高い水稲品種の育成が加速されると期待さる。す。また、本技術は栽培管理にも利用でき、デジタルカラーカメラだけでなく、NDVI)や葉温)を計測できるセンサーなども活用することで、作物生育量の多面的な調査が可能となりる。これにより、作物の生産性をさらに高める技術の開発につながることが期待されりる。

2018.01.30
農人No.07 ドローン・ジャパン株式会社代表取締役社長 勝俣喜一郎