日本型イネ由来の新規除草剤抵抗性遺伝子HIS1の発見

 埼玉大学大学院理工学研究科の戸澤譲教授、農研機構らの共同研究グループは、「コシヒカリ」などの日本型イネが有する除草剤抵抗性遺伝子を発見し、そこにコードされるタンパク質が複数の除草剤を不活性化する仕組みを分子レベルで解明したと発表した。

 水田雑草の防除に除草剤が用いられるようになってから水田の管理効率は飛躍的に効率的になってきた。しかし、連続して同じ除草剤を用いると、その除草剤に対して抵抗姓を持つ雑草が繁茂してしまうことから、複数の成分を組み合わせたり、新しい除草剤を開発したりする研究が行われている。

 また近年、一部の飼料用米がトリケトン系除草剤に対して感受性を示した。感受性とは平たく説明すると、この場合、抵抗性の逆で除草剤をかけると稲も枯れてしまう状態のことを指す。このことから、感受性をもつイネを栽培するエリアではトリケトン系除草剤を使用できない状態となっている。

 そこで研究チームは遺伝子の解明を開始し、除草剤に対する感受性がイネの第2染色体に座乗している1つの遺伝子に支配されていることを発見した。そこから更に解析を進めると、原因遺伝子がHIS1であることがわかった。「コシヒカリ」などの抵抗性品種では、HIS1遺伝子からタンパク質が作られているのに対し、除草剤感受性品種では、HIS1遺伝子には28bpの欠失が見られ、遺伝子の機能が失われていることが明らかとなった。

 さらに研究チームは除草剤に感受性をもつ原因遺伝子がどこから来るかの調査を開始した。調査の結果、28bpの欠失したHIS1は東南アジアに由来するPetaという品種に由来することが明らかになった。Petaはアキヒカリ、ハバタキ、ミモロマンなどの先祖にあたる品種である。

 研究チームは、感受性をもつ植物品種にHIS1を発現させることで、トリケトン系除草剤に対する抵抗性を示したことから、HIS1遺伝子が、日本型イネの除草剤抵抗性遺伝子であることを証明した。さらにシロイズナにHIS1を発現させると同じく抵抗性を示したことから双子葉植物にも除草剤抵抗性を付与できることを明らかにしている。

 単一の除草剤とその抵抗性遺伝子の組合せに依存する作物栽培は、その除草剤に抵抗性を持つ雑草の繁茂につながるが、除草剤と抵抗性遺伝子の組合せを増やすことで、より多種類の雑草を対象に、水田での繁茂を有効に抑制することが可能となる。遺伝子はHIS1は、交配育種により、抵抗性のないイネ品種に導入することが可能であり、より有効な雑草管理が可能になると期待される。

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