有機農業は果たして儲かるのか?品目別データと農家の苦労

 近年、有機専門店だけでなくともコンビニでも購入できるようになった有機食品。それだけ有機食品市場は拡大しており、その中でも有機農業の市場も拡大しており、特にオリンピックに向けてその動きが加速している。
 そこで今回は生産者の目線に立ったときに有機農業が儲かるのか?ということを農水省と有機農業参入促進協議会の出している農業経営統統計をベースに検証していく。

拡大する有機食品市場
品目別データ
有機農業は儲かるのか?
有機農家を取り巻く環境

拡大する有機食品市場

 有機食品を見かける機会は年々増えており、15年には有機食品を取り扱う専門店や一部の高級スーパーやデパートで販売されていたが、近年では近所のスーパーやコンビニでもそれら商品を見かける機会が増えている。
 ここまで有機というワードを使用してきたが、有機醤油、有機野菜というように有機(オーガニック)というフレーズを使用する場合には、公的な認証機関から有機JASの認証を受ける必要がある。そのためここで言う有機食品とは有機JASの認証を受けたものの食品、野菜ということに絞って展開していく。 有機JASについて詳しくはこちら
 近年、有機食品に対するニーズは拡大しており、都内で行われる展示会でも有機に限定してた展示会が開催されたり、学校給食でも有機の野菜が積極的に使用されるようになるなど、産業としても成長を続けている。 
 平成31年3月農水省の発表した”有機農業をめぐる事情”では、日本の有機食品市場は2009年が約1,300億円、2017年が1,850億円と30%近く拡大している。その調査結果によれば有機食品を週1回以上食べると回答した人は17.5%に登り、ほとんど全ての食品を有機で賄っていと回答した人の1ヶ月の平均有機食品購入額は10,750円という結果になった。これは厚生労働省の発表している1人あたりの1ヶ月あたり平均食費の約1/3にあたる。数値を見ても有機食品市場が拡大していることは明らかである。

有機農業の拡大
 一方で有機農業に限ってデータを調べてみると、先ず有機農業取り組み面積は平成29年の段階で、23,000haとなっており耕作面積の約0.5%にあたり、平成21年が、16,000haであったことを考えると約1.4倍に増加している。ただし、有機JASを取得している農地は平成29年の段階で約10,000haと全体の0.2%となり、国が目標としていた平成30年で農地面積の1%を有機農業に変えるという目標はショートしている。

 有機JAS取得農地の内訳は約30%が田、50%が畑、15%が果樹園、残りが牧草地となっている。都道府県別でみると、北海道に約20%の有機JAS認定畑が集中しており、島根県は全体耕作面積のうち1%以上が有機JAS取得農地と島根県の有機農業に対して力を入れていることが分かる。

 有機JASの取得生産者は、平成22年をピークに若干の減少傾向にあり、平成22年度が4,009件であったのに対し、平成28年度には3,678件となっている。もちろんこのデータは有機JAS取得農家に絞った数値であるため、実際有機JAS
は取得していないものの有機農業に取り組んでいる農家件数は増加しているという見込みだと言われている。

 最後に世界全体と比較した場合では1999年から2016年までに有機農業に取り組む面積は5倍に増えており、国によって有機に対する基準は異なるものの公的機関の認証を受けた有機農業取り組み面積を比較してみると、耕作面積全体に対する割合ではイタリアが14.5%とダントツに高い。全体の比率ではそれぞれ0.6%と0.4%と低いものの、取り組み面積としてはアメリカが2,031,000ha、中国が2,281,000haと日本の約200倍の面積となっている。
 
 まだまだ世界的に見て日本の有機農業に対する取り組みは発展途上と言えるが、市場も拡大しており伸びしろは十分にある。

品目別データ

 市場も拡大しており、世界と比較しても伸びしろが十分にあるのが有機農業市場である。一方で有機JAS認証を受けている農家数が減少(増加が鈍化)しているという事実もある。
 そこで本記事のタイトル通り、有機農業が実際儲かるかどうかについて検討をしてみたいと思う。検討の仕方としては、農水省と有機農業参入促進協議会が出している農業経営統統計を比較していく。この統計データには品目別に10aあたりの売上と生産にかかるコスト、労働時間が集計されている。もちろん統計情報であるため数値は平均値となっており、それ以上それ以下になるケースもあると思われるが、このデータをベースに比較していく。

 表にあるように、作物毎に比較した場合、売上、利益はほんとんどの作物で慣行農業よりも有機農業が上回る。また農薬等を使用しないケースが多いため経費も有機農業のほうが安く抑えられる。
 一方で、労働時間を見ると除草など圧倒的に有機農業のほうが時間がかかっている。そのため利益を労働時間で割った場合、今回比較したデータでは、だいこん、キャベツ、いちご、水稲は有機農業の場合のほうが高くなるがそれ以外は逆転し慣行農業のほうが高くなっている。

 農水省の調査では、有機農業をやめるもしくは縮小する最大の理由は、労力がかかるためという回答が半数を占め最も多い理由となっている。また、有機農業としては、収量や品質が不安定なことも、撤退の理由として2番目に多くなっている。
 なお、販路獲得が困難で撤退、もしくは縮小する農家の割合は全体の15%未満と、前述したとおり市場が拡大していることから売ることよりも、作る労力の確保が課題になってきている。

有機農業は儲かるのか?

 品目別にデータを並べてみると売上や利益は高くなるものの、時間あたりに換算した場合、慣行と比較してむしろ安くなってしまうケースもある。比較したデータはあくまで平均値であるため、それより効率的に高収益を上げている農家や生産法人もいるだろし、有機と慣行を組み合わせて展開している農家も少なくない。

 さて、それらを比較したときに有機農業は果たして本当に儲かるのか?という問いについてはYes or Noで結論づけることはできず、品目によっても異なるためケースバイケースというどっちつかずの結論となった。そのため有機農業を開始する場合は最初の品目選びはかなりキーになってきそうである。また、ここではイニシャルコストの計算は含まれていないため、施設などの初期投資が必要なケースもある。

 販売先を見てみると有機農業に取り組む生産者のうち約66.3%の生産者は消費者への直接販売を行っている。直接販売を行う理由としては、直接届けたいという想いの部分と自分で価格を決定できるという販売者にとってもメリットがある。
 特に新規就農者で有機農業の取り組む農家の出荷先の約3割は個人消費者となっている。しかし、農業生産販売額が200万円以下の農家が直接販売を選択する傾向が強く、販売額が大きくなってくると農協や市場など大規模流通に販売販路のウエイトをシフトしていく傾向が強い。

 農業に新規参入する農家で有機農業を始める人は高単価/高収益を狙い、直接販売を選択する傾向がある。しかし、前述したとおり、有機農業には手間がかかることもあり、いくら高単価/高収益で販売できたとしても慣行農業で大規模流通に出している農家のそれを下回るケースもある。場合によっては梱包発送作業の時間が追加され、さらに近年高騰している配送料もコストとしてのってくるため、時間あたりの利益は更に圧縮されてしまう。そのため販路としては複数の販路を整備していくことは重要である。

有機農家を取り巻く環境


 有機農家の中には有機野菜を比較的大規模に生産し、大規模化することでコストを減らし高収益を上げている農家や生産法人もいる。また飲食店を自身で経営しながら、ロスを減らしコストカットをしている生産法人も存在している。

 一方で有機農業を取り巻く環境はなかなか厳しいというのも実情である。実際数字を見てみると、労働時間が長く時間あたりの収益は低いケースもあり、労働力を確保できないといういわゆる人手不足も問題となっている。また慣行農法については一定の栽培ノウハウは蓄積されているため作業も効率化され労働時間が短いという点もある。一方で、有機農業は生産者によって栽培方法が異なり、一定の栽培ノウハウが蓄積共有されていないという課題もあり、労働時間が長くなっているということも事実である。それもあり、有機農業参入促進協議会のように栽培ノウハウの蓄積と共有は非常に重要である。
 
 また、近年オーガニックブームもあり、消費者の目も厳しくなっていることや市場が活性化していることから仕入れサイドの要求も強くなっている。特に有機農業の裾野が広がっていることから、有機農業に対して誤解されている側面もある。例えば消費者の中には有機野菜は農薬を一切使用しないで栽培されているということや、有機野菜はf1の種を使用していないなどである。真っ当に有機農業をしている農家でもあらぬ誤解で販売できなかったりとクレームを受けたりするケースもある。
 そのため、有機農業の技術ノウハウの蓄積も重要であるが、消費者に対しても有機農業の大変さを含めた真実を知ってもらう啓蒙活動も重要となるであろう。

 有機農業を儲かるか儲からないかの天秤にかけることもはばかられる部分はあるものの、今回は敢えて有機農業が儲かるかどうかを調査した。儲かるかどうかも重要であるが、有機農業はノウハウの蓄積と有機農業の真実を啓蒙することが重要である。

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