遺伝子組換作物は本当に危険なのか?事実と誤解

遺伝子組換えのバラ

 今回は遺伝子組み換え作物について、特に生産、農業という側面から解説する。遺伝子組換え植物と聞くと漠然と危険と感じる人も多いワードであるが、実際遺伝子組換え作物がどのようなもので、どのような危険性があるか?を説明できる人は多くない。そこで遺伝子組換え植物とはどのようなものかをできる限り簡単にまとめ、農水省はじめ各官庁が厳しく検査している理由を解説し最後に遺伝子組換え作物に関する誤解を紹介していく。

遺伝子組換え作物とは
日本の遺伝子組み換えに対する管理
遺伝子組換え作物は危険なのか?
遺伝子組換作物の普及と反対

遺伝子組換え作物とは

 遺伝子組換え作物とは、生物の細胞から有用な性質をもつ遺伝子を取り出し、植物の細胞に組み込み新しい性質を作り出すことをいう。生物の教科書などにはらせん状の遺伝子をイメージがよく掲載されているが、非常に簡単に説明すると、そのらせん状の遺伝子から有用な部分のみを取り出し、植物種に取り込み栽培した種を遺伝子組換え作物という。
遺伝子
 遺伝子組換え技術が発明される以前は、例えば害虫に強い種と味見に優れる品種を交配させ、害虫に強く味見に優れる種を開発しその種を生産、流通させていた。詳しくはこちらのf1種についての解説を参考していただきたい。これは両親の性質を引き継がせ生産にとって都合の良い植物種を作り出す取り組みである。
 一方遺伝子組み換え技術では異なる両親を交配するのではなく、ピンポイントで発現させたい性質を作り出す遺伝子を人工的に組み込む方法である。それも従来のように植物種同士の交配ではなく、動物など植物とは全く異なる生物から遺伝子を抽出し取り込んでいる。遺伝子組換え植物のもつ性質としては、主に除草剤耐性、病害虫耐性、貯蔵性増大などがあげられ、主に農家(生産者)や流通業者の効率性を考慮した第一世代、栄養価や有害物質を減らした第二世代が挙げられる。

 遺伝子組換え作物として有名なのは、大豆、トウモロコシ、ワタ、アブラナである。特に大豆の遺伝子組み換え種の生産量は多く、世界の大豆の生産量のうち47%は遺伝子組み換え植であるとされている(ISAAA調べ)。国別で見てみるとアメリカ、ブラジル、アルゼンチンが上位を締め、近年ではインドの遺伝子組み換え作物の生産量が増えている。
 日本では後ほど詳しく説明するが食用を目的とした商業目的での遺伝子組み換え作物の生産は行われていない。

日本の遺伝子組み換えに対する管理

遺伝子組換えの検査
 遺伝子組換え植物が危険であるかどうか?についての議論は分かれるところであるが、危険かどうかを判断する前に日本では輸入、流通、栽培その他使用を含め法律に基づき安全性が認められなければならない。日本において厚生労働省、農林水産省2つの官庁が3つの視点から安全性を判断している。
1:食品としての安全性「食品衛生法」 厚生労働省
2:飼料としての安全性「飼料安全法」 農林水産省
3:生物多様性への影響「カルタヘナ法」農林水産省
それぞれどのようなものであるかを簡単に説明していく。

1:食品としての安全性「食品衛生法」 厚生労働省
 食品としての安全性は食品衛生法に基づき厚生労働省が管理を行っている。先ず遺伝子組み換え植物を日本国内で流通させようとし場合、厚生労働省に申請を行い、厚生労働省は専門家から組織される食品安全委員会によって安全性について科学的に分析を行う。分析項目は多岐に渡るが評価するポイントは主に下記5点となる。
①組み込む前の作物(既存の食品)、組み込む遺伝子、ベクター(遺
伝子の運び屋)などはよく解明されたものか、人が食べた経験はあ
るか。
②組み込まれた遺伝子はどのように働くか。
③組み込んだ遺伝子からできるタンパク質はヒトに有害でないか、ア
レルギーを起こさないか。
④組み込まれた遺伝子が間接的に作用し、有害物質などを作る可能性
はないか。
⑤食品中の栄養素などが大きく変わらないか
 これら基準は、品の国際基準を作っているコーデックス委員会のバイオテクノロジー応用食品特別部会が作成したガイドラインに沿ったもので、
2000 年から 2007 年にかけて日本が議長国となり、ガイドラインを作成している。

2:飼料としての安全性「飼料安全法」 農林水産省
 飼料とは牛や豚など家畜の餌のことである。飼料も牛や豚など家畜を通じて肉や牛乳として間接的に人間が摂取することとなるため、農林水産省の管轄により安全性の検査を行っている。管轄こそ農林水産省となるが実際、検査を行うのは上述した食品安全委員会となる。ここでの安全性が証明された飼料のみ流通させることが可能となる。

3:生物多様性への影響「カルタヘナ法」農林水産省
 遺伝子組換え植物は病害虫に強い性質を持っていることから、畑で生産している遺伝子組み換え植物が自然界に逸脱した場合、除去が難しく生物の多様性に影響を与える可能性が危惧されている。例えば、畑で遺伝子組み換えのイネが逸脱し、自然界に生育しているイネ科植物と交配し新しい品種が生まれてしまった場合、そこにもともと自生していたイネ科植物の生育を阻害したり、絶滅させたりしてしまうという危険性である。
 そのため農水省では、
①「競合における優位性」:遺伝子組換え植物が野生生物の生育を阻害しないか?
②「有害物質の産生性」:野生の動植物や微生物などを減少させたり、絶滅させたりしないか?
③「交雑性」:在来の種と交雑しないか?
という3つの観点から遺伝子組み換え植物種の安全性について評価を行っている。

 つまり、食(食品、飼料)と自然界(生物多様性)に与える影響という2つの観点から厚生労働省、農林水産省が安全性を評価している。

遺伝子組換え作物は危険なのか?

野菜作り
 遺伝子組換え植物の安全性については上述したとおり厚生労働省と農林水産省の厳しい検査により評価されている。そのため現時点で日本国内で流通している遺伝子組み換え植物は「科学的に」安全性が担保されているということになる。
 一方で、遺伝子組換え植物は危険というイメージがあり、安全性に対する議論が続いていることもまた事実である。農ledgeでは遺伝子組み換え植物の安全性をPRし、危険性を否定したいわけではない。あくまで今行われている議論の以前に「誤解」が生じていることがあり、その誤解について解説する。

誤解①:虫が遺伝子組換え作物を食べて死ぬのに人間が食べて安全なはずはない
 遺伝子組換え作物が危険と反対する人たちが最も根拠とする話である。例えばBtタンパク質を含むBtコーンと呼ばれるトウモロコシには殺虫成分が含まれいる。Btタンパク質とは、Bt(バチルス・チューリンゲンシス)と呼ばれる微生物に含まれる殺虫成分が含まれている。確かにBtコーンを食べた虫は死んでしまい、過去遺伝子組換え植物について報じられていた際にはテレビ等で、コーンを食べた虫が死ぬシーンが放送されていた。つまりこれらを見た人が虫が食べて死ぬコーンを人間が食べたら死ぬとまでは言わないものの危険であると反対をしたのだ。
 しかしここには大きな誤解がある。それは虫と人間を含む哺乳類、鳥類では消化器官が根本的に違うということである。先ず虫の消化器官はアルカリ性でありBtコーンに含まれるBtタンパク質はアルカリ性に反応し活性化され、消化管の粘膜(正確には粘膜の受容体)にくっつくことで細胞を破壊する。しかし哺乳類、鳥類の消化器官は酸性であるため、Btタンパク質は分解されてしまう。また粘液中にBtタンパク質とくっつく受容体もないためそもそもBtタンパク質が体内で活性化することもない。
 更に補足しておくとこのBt(バチルス・チューリンゲンシス)は、特定の虫のみに効果を発現することから、Bt剤(農薬)として利用され、日本でも1983年から使用が認めらており、農薬等について基準の厳しいヨーロッパでも環境に負荷の少ない農薬として使用が認められている。

誤解②:遺伝子組換え作物を食べ続けるとガンになる
 この話もよく反対派から出てくる話題の1つ。画像の著作権の問題からここに画像を掲載できないが「セラリーニ ラット」などと検索すると遺伝子組換え植物を食べ続け腫瘍ができたラットの画像が多く表示される。
 これは2012年フランスのセラリーニ博士が遺伝子組換え作物を与え続けた結果ラットのガンが誘発されたと発表したものである。ショッキングな写真とともに世に広まり遺伝子組み換え植物の危険性を知らしめる研究論文であった。
 しかしその翌年、セラリーニ博士の研究論文は取り下げ処分となった。理由は実験方法が極めて不適切というものであり、そもそも発ガンしやすいラットを非常に限られた実験区で飼育し、かつサンプル数も十分でないというものであった。当時、遺伝子組み換え反対派の社会団体から大きな支持を得たものの、研究者からは実験方法の不備等を酷評される結果となった。
 遺伝子組換えと発がん性についての関係性を発表した唯一の研究結果であったがその不備もあり、未だに遺伝子組換え植物と発がん性の関係を証明する科学的なエビデンスはない。

誤解③:遺伝子組換え作物は日本で流通していない
 これも誤解である。上述したとおり日本で食用を目的とした商業用に遺伝子組み換え植物の栽培は行われてないが、日本国内において遺伝子組換え植物は流通している。
 例えば、日本で多く消費さている大豆の9割近くは輸入に頼っており、その輸入元はアメリカである。アメリカで栽培される大豆のうち約9割は遺伝子組み換え大豆となっている。それを原料としたしょう油や味噌などを通じて我々日本人も普段から遺伝子組換え植物を摂取している。
 補足ではあるが、醤油や食用油では、加工の行程で酵素分解、加熱、精製などによって、遺伝子が組換えられたDNAとこれによって生じたタンパク質が分解、除去され、最新の技術によっても検出できないため、検査しても検証できないことから遺伝子組み換えであることを商品表示ラベルに記載する必要がないと日本の法律は定めている。

誤解④:遺伝子組換え作物の栽培により農薬散布料が増える
 これは少し細かい話になるのだが、遺伝子組み換え植物を栽培していると、その植物を食べても大丈夫という「抵抗性」を持つ虫が発現し、その虫を除去するためにむしろ農薬散布料が増えるという話である。
 これは人類が農薬、殺虫剤、防虫剤を生み出してきたときから続く大きな課題である。虫も生物である以上、様々な環境に適応できるように「進化」を繰り返している。その進化の中で遺伝子組換え作物に対する抵抗性をもつ虫が発現したことも事実である。
 しかし、人類はそのような課題には何度もぶつかり、新しい品種や対策を生み出すことで解決してきた。これは遺伝子組み換え植物に対する限定的な課題ではなく地球温暖化に対応した新品種の発明や、より効率的な農薬の開発などと大きな意味は変わらない。生物を含む地球環境は常に一定ではない。抵抗性をもつ虫が発現した場合、緊急的にその年は農薬散布料が増えるかもしれないが、翌年は違う作物や農薬を使用すれば良い話である。
 よって、新しい抵抗性を持つ害虫の発現は認められるが、一方でそれにより農薬散布料が継続的に増加するわけではない。

遺伝子組換作物の普及と反対

 ここまで遺伝子組換え作物についての概要と誤解について解説、紹介をしてきた。ここまでの話を簡単にまとめると現状、遺伝子組換え植物が人体にとって影響を与えるという科学的な根拠はない。むしろ安全であることが科学的に認められている。ということである。
 しかし、安全であることが科学的に分かっていても、【現在】の科学技術ではわからない経験性が潜んでいるかもしれない。という意見もある。例えば子供や孫の代に遺伝子組換え作物の影響が出たり、今の科学技術では解明することができない危険が潜んでいる・・・というものである。もちろんその可能性は0ではない。

 つまり、科学的に安全であることが証明されていても、心で判断する安心というものはまた別物ということである。安全を追求しても安心であることを証明することは難しい。ここが遺伝子組換えに対する反対派と賛成派の意見が平行線をたどる根本的な理由である。最終的には、自信が気持ちよく安心と思えるものを摂取すればよく、両者を否定し、それぞれの文化や科学技術を衰退、停滞するものであってはならい。

 また農ledgeとして最後に伝えたいこととしては、遺伝子組換え作物に対する反対派の意見も十分に理解している一方で有用性についても認めている。
 しかし、遺伝子組換え作物に対して危険であると風潮し、その中で遺伝子組換えでない作物や自社の商品を売る「マーケティングの材料」として事実を湾曲、都合の良いように解説して利用することが最も悪である。
 遺伝子組換えについて研究している研究者がいて、それに対してオーガニック野菜や自然栽培で生産を行っている農家さんがいる。それぞれ真剣に取り組んでおり、自分にとって良いと思えるほうを選択すれば良く、他を否定し自信を売り込むようなマーケティングの材料として各研究等が引用されないことを願っている。

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