【農研機構】稲作の二期作で画期的多収になる手法を研究

農研機構は、良食味多収水稲品種「にじのきらめき」を用いて福岡県内の試験ほ場で行った再生二期作において、苗を4月に移植し、地際から40cmと高い位置で一期作目を刈り取ることにより、切株に蓄積されたデンプンや糖等を利用することで再生が旺盛になり、一期作目と二期作目の合計でおよそ950 kg/10a(2か年の平均)の画期的な多収が得られることを明らかにしたと発表した。

開発の社会的背景

近年、地球温暖化の影響で国内においても春や秋の気温が上昇し、水稲の生育可能期間が長くなり、これまでよりも早い移植や遅い収穫が可能になってきている。現在、沖縄県等の生育可能期間が長い地域では、水稲を一度移植・収穫した後に、もう一度、移植・収穫する通常の二期作が行われる場合がある。他方、水稲は多年生の性質を持つため、収穫後に切株からひこばえが発生することから、ひこばえを栽培・収穫する再生二期作を行うことができる。再生二期作では、通常の二期作で行われる二期作目の育苗や移植が不要であり、また適切な管理を行うことで通常の一期作に比べて増収も可能であるため、生産量当たりの生産コストの削減が期待できる。

研究の経緯

これまでに農研機構では、飼料用米等に用いられている多収品種「北陸193号」を早生化した系統の再生二期作において、一期作目の収穫時期や収穫時の刈り取り高さを工夫することにより、福岡県内の試験ほ場で1.5 t/10aに迫る多収が得られることを明らかにしている。しかし、輸出用米や業務用米等に用いられる良食味多収品種の再生二期作栽培技術は、開発されていなかった。

近年、農研機構が育成した「にじのきらめき」は、「コシヒカリ」並の良食味性とおよそ700 kg/10aの多収性を兼ね備えるほか、高温登熟耐性や耐倒伏性に加え、縞葉枯病やいもち病といった病害への抵抗性を持つ栽培しやすい品種。そこで今回、「にじのきらめき」の再生二期作において、一期作目の移植時期や収穫時の刈り取り高さを工夫することにより、一期作目と二期作目の合計で得られる収量を明らかにした。

研究の内容・意義

試験は、2021年及び2022年に福岡県筑後市にある農研機構九州沖縄農業研究センターの試験ほ場で、「にじのきらめき」を用いて実施し、一期作目の移植時期(4月植え又は5月植え)及び収穫時の刈り取り高さ(地際から40 cmの高刈又は20 cmの低刈)について検討した。4月植えでは、一期作目を8月上旬に収穫した後、二期作目を10月下旬に収穫。また、5月植えでは、一期作目を8月中旬に収穫した後、二期作目を11月下旬に収穫。窒素は、基肥10 kg N/10a(移植日)と追肥13 kg N/10a(一期作目の出穂12~13日前、収穫8~11日前、収穫日及び収穫30日後にそれぞれ3、4、4及び2 kg N/10a)の合わせて23 kg N/10a施用(通常の一期作で「にじのきらめき」を栽培する際のおよそ2~3倍)。また、リン酸及びカリウムは、基肥と追肥を合わせて、それぞれ8 kg P2O5/10a及び8~12 kg K2O/10a施用。

一期作目と二期作目の合計収量は、苗を4月に植えると(高刈と低刈の4月植えの平均、以下同様)、5月に植えた場合(高刈と低刈の5月植えの平均、以下同様)に比べて、9%多くなった。また、一期作目を高刈すると(4月植えと5月植えの高刈の平均、以下同様)、低刈した場合(4月植えと5月植えの低刈の平均、以下同様)に比べて、4%多収になった。このため、4月植えで高刈すると、2か年の平均で944 kg/10aの多収になった。特に、2021年は、1016 kg/10aの極多収になった。なお、一期作目の収量は、4月植えと5月植えとの間に大差はなかった。
二期作目の収量は、苗を4月に植えると、5月に植えた場合に比べて、穂数の増加を介して籾数が増加し、49%多くなった。そこで、一期作目の収穫指数(HI)のほか、一期作目の切株において、休眠芽を目覚めさせる作用のある非構造性炭水化物(NSC)や光合成に関与する葉面積指数(LAI)を調べた。その結果、4月植えでは、一期作目の籾に詰まったデンプンの量に比べて植物体全体が大きくHIが低い、すなわち、籾に詰まり切らずに行き場を失ったデンプンや糖等が茎や葉に多く残り、単位面積当たりの切株のNSC量やLAIが増加し、穂数の増加に繋がったことが推察された。
二期作目の収量は、一期作目を高刈すると、低刈した場合に比べて、穂数の増加を介して籾数が増加し、15%多くなった。さらに、一期作目の切株において、NSCやLAIを調べたところ、高刈では、NSC量やLAIが増加し、穂数の増加に繋がったことが推察された。
以上をまとめると、4月植えは5月植えに比べて、一期作目のHIが低く、切株のNSC量やLAIが増加し、二期作目の穂数が増加したため、多収になった。また、高刈は低刈に比べて、切株のNSC量やLAIが増加し、二期作目の穂数が増加したため、多収になった。
炊飯米の食味は、4月植えした「にじのきらめき」の一期作目と二期作目との間に明確な差がなく、また、これらは通常の一期作の「ヒノヒカリ」と大差はなかった。しかしながら、今後、本技術の普及に向けて様々な栽培条件における検討が必要。

今後の期待・予定

生産現場における平均収量(2021年及び2022年の福岡県の平均で482 kg/10a)に対して画期的な多収が得られる本技術は、生産量当たりの生産コストの削減が想定されるので、大幅な低コスト生産が求められる輸出用米や業務用米等への活用が期待される。なお本技術では、地際から高い位置での一期作目の刈り取り(収穫)や、稈長の短い二期作目の収穫を行いますので、自脱型コンバインの使用が困難で、普通型コンバイン(汎用コンバイン)の使用が必要となるほか、生育期間を通じた用水の確保が必要となる。また、収量の増加に伴って地力の低下が予想されるので、地力の維持が必要になると考えられる。今後、これらの点に留意しながら現地実証試験を行っていく予定。