「小さな農業」で稼いでいる農家を調べてみた

 近年、「儲かる農業」が業界のキーワードとして言われることが多くなり、儲かる農業や農業で稼ぐということをテーマにした書籍、記事がよく見られるようになった。とは言えそれら書籍や記事も他の業界と比べれば数は圧倒的に少ない。また、それら書籍や記事も趣味レベルの範囲から法人化して年商数億円規模で売上を出すというようなものまで規模も様々であり、必ずしも読み手の状況に一致するものは決して多くない。更に農業界の特徴として地域内でのつながりは強いが、それ以外のつながりが薄く、経営ノウハウなども共有化されることは多くない。
 
 そこで農ledgeではつながりのある農家さんに経営ノウハウなど取材した。経営ノウハウを公開するということは、競争相手を増やしかねないという懸念もあることから、名前や地域、栽培作物、具体的な数値の公開はせず、エッセンスのみを公開することで了解を頂いた。

 今回注目するのはその中でも売上という点に着目する。非常にシンプルな計算式であるが、売上は単価×量という式で計算され、今回、コスト部分は含まない。本来はコストを引いた上で最終的な利益をもって判断すべきであるが、コスト部分は土地の賃貸条件などよりセンシティブな内容を含んだり、かつ再現性も低かったりすることからコスト部分は加味しないこととした。そのため今回は特に、同じ栽培品目と面積でありながら平均的な売上(単価×量)よりも高い農家とその取組について公開する。
 
今回紹介する3件の農家の栽培方法は慣行農法で、栽培品目は野菜、栽培面積は関東の専業農家1件あたりの栽培面積とほぼ同じかややそれを下回る程度という条件である。

ケース1:販売先に合わせて自らをブランディング Aさん

 Aさんは農地は親の代から引継いだ後継者農家で、薬味系の作物を専門に育てている。元々は市場出荷がメインだったところをAさんの代になってから、より顔の見える農業を目指し、一から自分で販路を開拓することを開始した。
 
 販売先は高級レストランに絞り売り先を開拓した。海外の有名シェフに自分の野菜を持っていったり、そこから知り合い経由でシェフを紹介してもらったりしながら、現在は300件ほどの飲食店と直接取引しているという。海外の有名シェフに評価されることで、ある種のお墨付きとなり、販売先を開拓するのに役立ったそうだ

 Aさんが他の生産者より高単価で販売ができるのは、徹底的にシェフに求められている商品を作っているためである。取引先を高級レストランに絞ることで、その期待に応えられる味、見た目、収穫時期などを徹底し、自らの薬味も高級品ブランドとしてブランディングを行った。その結果、食材にこだわる高級レストランが薬味を選ぶときにAさんの薬味が第一想起され、安売りをせずとも販売が可能となった。さらに、自らの薬味が高級レストランに合う高級な薬味だということを守るために、安売りなどはしないようにしているという。

 また、販売先を高級レストランに絞り、新規の開拓はレストランからの紹介をメインとすることで、新規の販路拡大のための営業時間を少なくしている。その空いた時間を飲食店からの細かなオーダーに応えるために使っており、例えば、飲食店で使いやすいようにと頼まれれば一つ一つを梱包したり、味や香りが細かくずれてくるタイミングを見計らって収穫時期をずらしたりもする。その結果、高級レストランからの信頼も厚くなり、商品品質も他が追随できないことから価格と注文数が維持されている。

ポイント
・栽培品目を絞る。
・販売先を高級レストラン絞る。
・高級レストランのオーダーに合わせた品目を栽培し、規格や収穫時期を調整する

ケース2:少量多品目で販売計画も合わせて作成 Bさん

 Bさんは新規就農者で、今年で就農してから10年ほどになる。品目としては少量多品目で、数百種類もの作物を育てており、一反あたりの売り上げは200万を超えるのだという。
 
 徹底しているのは、流通から逆算して販売計画を立てること。Bさんによれば、栽培技術を上げることは確かに重要であるが、それよりも誰に買ってもらい、どのように食べてもらえるのかを考えながら作ることの方が重要なのだそうだ。
 
 具体的には卸先である飲食店のニーズから栽培計画を逆算し、販売計画をシェフに公開しているという。そうすることでシェフがメニューを組みやすくなり、早い段階で注文を獲得できる。その際、どのような野菜がほしいか?ということを細かくヒアリングする。例えば、同じジャガイモでもステーキの付け合せにする場合と魚のソテーの付け合せにする場合求められる大きさも変わるので、そのオーダーに合わせ、出荷する量や時期などを調整する。収穫前から価格を決定してしまうので、その後の市場価格に影響されることなく価格が維持できる、すなわち高単価を維持できるのである。一方でシェフも前々から来る野菜がわかっているためにメニュー計画を立てやすいということから両者Win-Winの関係性を築いている。
 
とは言え、栽培計画もどれだけ緻密に計算をしても天候等読めない部分も多分にあり、ずれることもある。そのため、少しだけ多めに栽培し、場合によっては余るように栽培計画をたて、その余ったものはマルシェで一般消費者に販売し一切のロスを出さないようにする。つまり栽培計画だけでなく販売計画も合わせて作ってしまうのだ。更にマルシェで販売するときも、一部を加工品に変えたり、新規のシェフに知ってもらうための営業ツールとしたりするなど、余剰を売るのではなく、余剰が更に新しい取引先を増やすように徹底して販売する。Bさんいわく作った野菜は必ずお金に変えることが経営だ!とのことだ。

ポイント
・販売先のニーズに合わせて栽培計画を立てる
・栽培計画だけでなく販売計画も合わせて立てる
・畑で生産するものに余剰はなく全てを売上に転換するように知恵を絞る

ケース3:販売先を搾る Cさん

 Cさんも新規就農10年ほどの農家さんである。Cさんも同じく少量多品目で野菜を栽培し、主な販売先はレストランである。Cさんは販売先のニーズをより深く理解するために、端境期には飲食店の厨房でアルバイトしたり、料理の詳しい人に料理を習ったりと生産だけでなく調理の現場の勉強も怠らないという。そのような経験を活かし、飲食店に営業をする際には「こういうのがほしいんだよね」と言われる前に「こういうのがあると良いですよね?」と提案することができ、シェフの潜在的なニーズにまで目を向けている。そのため、初夏の時期人気となる花ズッキーニは調理しやすいように梱包にも気を配っており、小さな違いかもしれないがその1つ1つがCさんの野菜を選ぶ理由になっていくという。

 さらに、Cさんは販売する品目だけでなく、販売エリアを絞ることで売上を向上させていている。それは飲食店が多く立ち並ぶ幹線道路沿いの飲食店にしか販売をしないという方法である。配送はCさん自身が行っており、配送できるキャパシティに限りがあるため、1本の道路沿いと絞ることで配送の手間を減らすことができる。更に、1つのビルに複数の飲食店が入っている場合、1階の飲食店に商品を預け、2階以上の飲食店の方が1階に取りに来てもらうという契約を結んでいる。荷物を預かる飲食店、1階に取りに行く飲食店それぞれに少しだけ値引きをすることで双方にメリットがある仕組みだ。このように販売エリアを絞ることで、普通よりも多くの量を販売することができる。シェフの潜在的なニーズに応え単価を維持しつつ、流通量を増やすというスタイルだ、

ポイント
・シェフの目線にたち潜在的なニーズを掴む
・販売エリアを絞ることで流通量を拡大させる

 最後に再度説明するが、ここでは同じ栽培品目、栽培面積で平均より多く売上を上げている農家を事例として紹介した。コスト部分など公開できなかったり、再現性が低かったりするという理由からコスト部分の工夫と内容は説明ができないが、ここで紹介した3農家については売上だけでなく利益も平均を上回っている。

 今回紹介したのは家族経営で栽培面積も決して広くない「小さな農業」である。万人がこの方法で売上や利益を拡大できるものとは思わないが、どこか真似できるポイントや参考になるポイントがあれば幸いである。

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