農家の人口減少について考察してみる

イチゴ

 農業は衰退産業だと言われ続けている。新聞やメディア等では、後継者不足、耕作放棄地の増加、高齢化などいかにも農業が衰退しているかのようなニュースが報じられている。確かに農家の数は年々減っており、高齢化も進んでいる。一方で農業の年間生産額はピーク時から減ったと言え、年間8兆円以上の生産額であり、実は半導体や百貨店のそれを上回る数値となっている。また近年農業生産法人の数も増えており、一概に衰退産業と結論付けるのは難しい。そこで今回は農業に従事している農家の数や構成比などに注目して解説をしていく。

農業就業人口とは
 よくテレビや新聞などで農家の人口が200万人を切ったという報道がなされているが、ここで言う農家とは正確には農業就業人口のことを指している。農業就業人口とは【15歳以上の農家世帯員のうち、調査期日前1年間に農業のみに従事した者又は農業と兼業の双方に従事したが、農業の従事日数の方が多い者をいう。】
と定義をされているが、簡単に言うなら15歳以上で、年間の労働日数のうち農業に関する労働が最も多い人のことである。
 
 ここでポイントとなるのは農業就業人口の中には、週末だけお米作りをする兼業農家や、農業法人に勤務する人はこの人口の中には含まれないということである。労働日数が基準となるため、中には平日会社勤めをし、週末は親の代から引き継いだ田んぼでお米を作っている。収入は会社からもらえるサラリーより米の販売による収入が高かったとしても労働日数が会社勤務のそれより下回るのであれば農業就業人口とは認められないのである。そのような兼業農家や農業生産法人へ勤務する人の人口は15万人前後いると見られ、実際の農業就業人口よりも多いと予想されている。

農業就業人口と平均年齢の推移
 図を見て分かる通り、農業就業人口は年々減っており、農水省の農林業センサスの結果では平成30年に175万人まで減少していることが分かる。
農業人口の推移

 平成12年以降の農業就業人口の平均年齢を見てみると60歳を超えており国土交通省が算出している全産業の平均年齢42.3歳を大幅に上回っている。平成30年の農業就業人口は175万人だが、うち約68%の120万人が65歳以上となっている。
 農業就業者は自営農家、すなわち自営業者ということで定年退職がないために65歳以上の農業就業者が多いということもその平均年齢を押し上げている。総務省の調査によれば全国の個人事業主(自営業者)の平均年齢は57.3歳となっており、65歳以上の割合が最も多い。全産業と比べると高齢化した産業であるが、自営業という中で比較すると一概にも高齢化とは言い切れない部分もある。裏を返せば他の産業より長い期間働ける産業が農業であるとも言え、全体の平均年齢が高いということを問題視する報道、論調も多いが必ずしもそうとは言い切れない。

農業生産額の推移
 農業生産額とは農業生産活動による最終生産物の総産出額のことで、正式には農業総生産額と呼ぶ。
 グラフの通り、1984年に11.7兆円に達し、1997年に10兆円を切るとそこから徐々に減少し2010年には8.1兆円にまで減少した。その後徐々にではあるが生産額は回復し、2017年には9.3兆円にまで回復している。
農業生産額の推移
 品目別で見ると米の生産額が減少しており、1994年には米だけで3.8兆円であった生産額が、2014年には半分以下の1.4兆円にまで減少している。しかし、2014年以降、米の相対取引価格は上昇しており、2014年には1俵(60kg)あたりの玄米価格が11,967円だったのに対し、2017年には15,590円にまで上昇している。特に2017年の15,590円という値は平成19年以降最高値となっている。この要因としては、2015年以降、食用米から主食用米以外の作物への転換が進む等、需要に応じた生産の推進により3年連続で超過作付が解消され、民間在庫の水準が減少したことが考えられる。
 野菜に至っては、減少が続いていたが2000年からすべての生鮮食品に産地表示が義務化されたことから国内志向が高まり、生産額も徐々に回復し、更に2017年には加工食品においても表示が義務化されたことから2兆円半ばまで回復をしている。

農業の市場規模
 農業の市場規模を考える時に、肥料や苗などの販売額、トラクターなどの重機の販売額などを加味すると更に拡大するため、ここでは農業における市場規模は農業総生産額とする。
 その場合、農業従事者1人あたりの農業生産額は9.3兆円÷175万人=531万円/人となる。さて冒頭で農業就業人口は年々減少している状況が続いていると説明した。そして農業総生産額も減少しているものの、近年回復傾向が続いている。下記が5年毎の農業生産額を農業就業人口で割った数値の変化である。
1人あたりの農業生産額
 これを見ると1人あたりの農業生産額が平成17年から上昇していることが分かる。ここから読み取れることは、農業生産額が一定の規模を維持し、プレイヤーが減少していることから1プレイヤー(農家)の生産額が拡大しているという”可能性”と、一方で1プレイヤーへの生産に対する負担が大きくなっているという2つの側面が混在している。
 他産業の市場規模と比較してみると、損害保険が9.4兆円となっており、ほぼ同水準である。総務省のデータによれば金融業界従事者数は約151万人なっており、非常に粗い計算とはなるが、市場規模を従事者数で割った一人あたりの生産額を出すと、農業は531万円、損害保険は626万円となっている。業界による利益構造の差などもあるため純粋な比較はできないが、こうしてみると農業という産業の市場規模や1プレイヤーあたりの生産額は決して小さなものではない。

若手農家の台頭
 ここまで、農業人口が減り高齢化しているという事実に対して、他産業との比較や1人あたりの農業生産額という側面から見てみると、必ずしも非観点的な産業でないことが分かる。
 ここで49歳以下の”若手”と呼ばれる農家にフィ−チャーして状況を見てみる。農水省の発表している平成29年度食料・農業・農村白書(通称:農業白書)によれば、49歳以下の若手農家に対して各地域で土地の集約化が進んでおり、耕作面積や経営規模が拡大している。若手と呼ばれる農家は約14万戸ほどであるが、そのうち45.2%が年間の農業販売額1,000万円を超えている。一方で、50歳以上の農家数は118万戸となるが、そのうちの82.8%が年間農業販売額300万円未満となっており、1000万円以上となると4.4%になる。
若手農家の生産額
 もちろん、50歳以上の農家の中には一線を退き、若手に土地を譲り敢えて小規模化する事例もあり、一概には言えないが49歳以下の若手農家が農業生産の中心的な役割を担っていることが分かる。これは先程も記述した可能性であるが、農業界全体の生産額が一定であり、かつ人口が減り、更にその中でも若手が台頭してきていることからいわゆる”稼ぐ”若手農家が増えているということを示唆している。
 実際、若手農家の耕作面積が20haを超える農家は59.5%にもなり、特に2005年から2015年までの10年間で畑作の面積は約1,5倍にまで拡大している。
拡大する若手農家

 これから考えられることは、農業人口は事実として減少している。しかし、農業生産額はゆるやかに回復傾向を見せ、更に経営規模を拡大している若手農家が増えている。つまり、人口が減り高齢化が進む産業と断片的な情報だけ見ると明らかな衰退産業のように見えるが、その中で、今まで以上に稼ぐ農家の出現や、経営規模を拡大する若手農家の台頭によりむしろ、伸びしろのある産業であるとも言えだろう。
 
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