クモ糸を超えるミノムシの糸、強さの秘密を科学的に解明

ミノムシ

 農研機構は、ミノムシの糸を真っ直ぐ長く連続的に採糸することに成功したことを発表した。ミノムシの糸は天然繊維で最強と言われてきたクモの糸より弾性率、破断強度、タフネスの全てにおいて上回ることが科学的に明らかになった。

 自然界の生物の形状や性質を分析し素材や機械構造に応用する取り組みを生物模倣(バイオメティクス)と呼び、1950年代から長年研究されてきた。クモの糸もバイオメティクスの1つで、クモの糸は天然繊維の中で最も強い糸として知らており、各国でクモの糸の実用化に向けた実験が行われている。しかし、クモの糸を実験的に採取することは成功しているものの、クモはクモ同士で共食いをするため大量生産は難しいとされていた。そのため、クモの糸を構成しているタンパク質と類似のタンパク質を人工的に合成し、繊維化することで、人工クモ糸として量産化しようとする試みが世界中で進められている。

 一方で、自然界にはクモ以外に糸を生成する生物は存在し、それら生物の作り出す糸の構造分析も行われている。その中で今回、農研機構は興和株式会社
と共同で、ミノムシの糸が弾性率、破断強度、およびタフネスの全てでクモの糸を上回ることを明らかにした。
ミノムシの糸の強度

 ミノムシの糸の成分であるタンパク質の1次構造(アミノ酸配列)や2次構造(コンホメーション)、高次構造(結晶構造やその凝集状態)を詳しく調べた結果、ミノムシの糸は、結晶領域と非晶領域が周期的に繰り返した秩序性階層構造からなり、その秩序性はカイコやクモの糸に比べ、圧倒的に高いことが分かった。さらに、この高い秩序性階層構造はシルクタンパク質のアミノ酸配列の特徴によって形作られることを明らかとなった。この高度な秩序性階層構造により、引っ張った時に糸に働く応力が個々の結晶にまんべんなく分散し、応力が糸全体に効率良く伝搬されることで、他のシルクに比べ高い弾性率、すなわち硬い性質を発現することが分かった。また、ミノムシの糸の高秩序性階層構造は、糸が伸ばされる過程でも崩れることなく、糸の切断まで維持されることが分かり、この、延伸される過程で崩れることのない高度な秩序性階層構造が、ミノムシ糸の高破断強度・高タフネスな性質を与えていることが明らかとなった。

 クモは共食いするという習性から大量生産が難しいとされているが、今回の研究により、ノムシの習性を利用して1本の長い糸を真っ直ぐに採糸する方法を開発し、産業上の有用性があることも併せて発表した。

 持続可能な成長社会実現のために、石油に頼らないバイオ素材の生産に注目が集まる昨今において、ミノムシの糸は非常に有用な素材として注目をされる可能性の高い素材である。また、今回の成果は、強い繊維を人工的に作る(例えば、タンパク質合成や発酵、遺伝子組換え生物などによる生産)場合の設計指標となり、今後の目指すべき繊維の指針として活用されることが期待される。