今回ご紹介する農人は株式会社ビビットガーデン代表取締役の秋元里奈さん。秋元さんは2016年「ITで農業界の課題を解決する」ビビットガーデンを設立し、現在は農家さんの野菜を直接購入することのできる「食べチョク」を運営している。
25歳で農業という業界に飛び込み、会社を立ち上げた秋元さんの生い立ちや農業に対する思いをうかがった。
畑で走り回った幼少期から農地に興味を持つ
秋元さんは神奈川県相模原市出身。実家は先祖代々続く農家で、畑は相模原市の住宅街の中にあり、近所のボーイスカウトの収穫体験なども受け入れていた。秋元さんもそんな姿を見て、幼少期はトウモロコシ畑を走り回り、熟れたトマトを取って食べていたという。現在も実家では無農薬野菜やカキなどの果物を生産しているという。
現在は食べチョクという農作物をネット上で購入するサービス「食べチョク」を運営する秋元さんであるが、大学進学を考える際、農業というよりも持っている資産をどのように運用するか?ということに興味を持ったという。「最初経済学部に行こうと思っていたんですけど、既に理系に進学していて経済学部は文系の学部であることを3年生になって知ったんです。それで理系からであれば金融工学というものがあると塾の先生に教えてもらい金融工学の学べる大学を目指しました。」と秋元さん。秋元さんは慶應義塾大学理工学部に進学し、そこで金融工学を学んだ。
0から1人でできるようになりたい
撮影:白石智宏
大学卒業後、秋元さんはDeNAに入社する。金融工学を学び、金融系の企業からも内定をもらっていたそうだが、1年目からバリバリ活躍ができる企業としてDeNAを選択した。入社当時は将来やりたいことがないことがコンプレックスだったそうだが、何かやりたいことができたときに1人でもできるような力を身に着けたいと思い、DeNA時代は4つの部署を経験した。4つの部署では営業、WEBサービスやスマホアプリの企画、マーケティング、新規事業の立ち上げなどを経験しバリバリ仕事をこなしていたとのこと。
「会社も事業もすごく好きでしたが、3年目に入り、ふとしたタイミングで自分の世界観をもっと広げようと社外の人とも積極的に交流をもつようにしました。」と秋元さんは話す。社外の人と話すうちに自身のやりたいことが徐々に見えてきたという。いろいろな人と話をするうちに実家が農家で農地を持っていることをすごいと言われ、幼少期の体験を思い出し、将来農業で事業をやるんだ!とこの時に決意したとのこと。
「幼少期から畑や野菜に触れていたせいか、農業というフレーズが1番しっくり来て、この道でやっていきたいと思いました。」と話す。秋元さんはその決意から半年後にDeNAを退職し、株式会社ビビットガーデンを立ち上げる。
株式会社ビビットガーデンの立ち上げ
撮影:白石智宏
ビビットガーデンではITの力を使って農業界の課題を解決することをMissionに会社をスタートする。これはDeNAという企業でITの力や可能性を実際に目にしてきた秋元さんならではの視点である。
当初は遊休農地と畑を利用したい人のマッチングを検討していたそうだが、実際に農家さんに話しを聞くなかで一旦その方向性は辞め、野菜の直売サービス「食べチョク」をスタートさせることとなった。食べチョクの詳しいサービス内容はこちら
とは言え、農家さんとのネットワークが最初からあったわけではなく、先ずは食べチョクに登録してくれる農家さんを増やすためにメール、テレアポをし全国の農家さんに会いに行った。「最初はお金もないので夜行バスとかで全国に行き、農家さんが東京に来られるときには直ぐに会いにいきました。」と実際畑まで足を運び登録してくれる農家さんの数を稼いだ。農家さんに構想を話すと思った以上に反応は良く、他の農家さんを紹介してくれる農家さんもいたという。
食べチョクをリリース
2017年5月23日にベータ版をリリースし、同年8月に本リリースとなった。構想から本リリースまで半年という短さである。これは秋元さんがDeNAで培ってきたスキルが活かせられているものではないかと思う。当初ベータ版では20軒くらいの農家さんが掲載をしてくれていたが、現在は60軒以上の農家さんが掲載をしてくれている。
サービスのリリースにあたって気をつけたことはユーザーの使いやすさはもちろんだが、このサービスで農作物を販売する農家さんが使いやすいかどうかという部分には徹底的にこだわったとのこと。例えばメールがうまく使えない農家さんのためにFAXで受発注ができるようにシステムを構築した。「出来る限り生産者サイドに目を向けて、農家さんファーストを意識しています。」と秋元さんは話すが、まさにITを使った農家さんの課題解決である。
撮影:白石智宏
一方で農家さんの意見だけでなく投資家や他の起業家の方にも意見を求め、サービスを更にブラッシュアップしている。「農家さんファーストのサービスを提供することでより多くの農家さんが登録してくれるようになる。そこに最適なUI/UXを組み合わせることで、消費者の方は簡単に自分の食嗜好に合う農家さんと繋がることができる。まさに農家さんと消費者の方の縁結びだと思っています。」と秋元さんは話す。
現在サービスは順調に伸びてきていて、登録農家さんも増えているとのこと。ただ、秋元さんいわく本当にやりたいことのスタート地点に立ったに過ぎず、今後この食べチョクに更なる機能を追加していきたいという。
また秋元さんは当面は「食べチョク」に注力をするが、ITを使った農業の課題解決として生産や流通の効率化、空き農地の活用化なども事業にしていきたいと未来も見据えている。
秋元さんから見た農業界の課題
最後に秋元さんから見た農業界の課題について話を伺った。「農業界は少し排他的な業界だなということを感じました。新規で事業参入したり、新規就農したりしたときに他の業界よりも少しハードルが高いかもしれません。そういう意味では異業種から参入してきたような新しい農業者が成功してロールモデルになるような支援もしたいと思っています。」と話す。
実家が農家であり、自身も農家さんを訪ねて全国を飛び回る秋元さんならではの意見である。その状況を肌で感じているからこそ、秋元さんの生み出すサービスは常に農家さんの方を向いた、まさに農家ファーストのサービスが提供できるのである。
25歳という若さで農業界に飛び込んだ秋元さん。今後の活躍がますます期待される。
秋元里奈
1991年生まれ
神奈川県相模原市出身
慶應義塾大学理工学部を卒業後DeNAに入社
2016年株式会社ビビットガーデンを立ち上げ2017年8月食べチョクをリリース
株式会社ビビットガーデン
http://vivid-garden.co.jp/
食べチョク
https://www.tabechoku.com/
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