気候変動の予測発表 地球温暖化により2080年までは米は増収予想

強い日差し

16日農水省らは気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~を発表した。全138ページにおよぶレポートには、今後の予測モデルを用いた気候変動の予測が書かれている。本記事ではその中でも農業領域に与える影響について抜粋して解説をする。

稲作
 温暖化の影響により、白未熟粒(高温等の障害によりデンプンが十分に詰まらず白く濁ること)や、胴割粒(高温等により亀裂が生じること)の発生割合が増加し、米そのものの品質低下が懸念される。実際一部地域では既に発生割合の高まっていると報告されている。
 一方で予測モデルによると病気の発生リスクも高まるものの、全国的な収量としては2080年までは増加傾向となる。特に地域別に見た場合、2031~2050年及び21世
紀末には、北日本や中部以西の中山間地の収量が増加し、関東・北陸以西の平野部地域において収量が減少する可能性があるという。
 既に温暖化に対する施策として、新品種の開発や高温適応技術の研究などが盛んに行われており、実際、白未熟粒や胴割粒に一定の成果を示している。今後ネットなどから最新の情報を収集しつつ個別対策がより重要となってくる。具体的には猛暑が続いた場合、追加の施肥や水田の水を排水する中干しの期間を短縮するなどである。
米の収量変化予測モデル

野菜
 既に40都道府県において温暖化による影響が報告されている。露地野菜では高温により、収穫期の早期化、生育障害の発生頻度の増加が生じおり、施設野菜でも、高温により、トマトの着果不良や裂果・着色不良、いちごの炭そ病(病原菌による病害)等の病害が生じている。

果物
 ぶどう、りんご、かき、うんしゅうみかんなどにおいて夏季の高温・少雨が原因により日焼け果や着色不良等の発生が既に報告されている。特に西日本で生産されるももにおいては外見からは区別がつかず、果実内部に「水浸状果肉褐変症」や「赤肉症」と呼ばれる果肉障害が発生し、品質の不安定化、生産者の収益の低下が懸念されている。また、過去40年によるりんごの食味検査の結果、酸含量が徐々に減る一方、糖含量はやや増加しており、りんごが甘くなっていることが明らかになっている。温暖化の影響により収穫時期がずれたり、病気の発生リスクが高まることは報告されていたが、味に変化が出ることは世界で初めての発見となる。
 果実生産の場においても気温の上昇によって新たに栽培できるようになる亜熱帯・熱帯作物の導入や転換、産地の形成等、温暖化に対応した取組が始まりつつある。愛媛県では、県南予地域において平均気温の上昇によるうんしゅうみかんの高温障害の多発を受けて、夏場の高温にも強いブラッドオレンジの一つである「タロッコ」を導入した。2008年に栽培面積が7.9ha、生産量が2.1tであったが、2013年には栽培面積が約24ha、生産量は140~150tに拡大し、市場で高い評価を受けている。
柑橘類の生育適地の変化

 今後うんしゅうみかんやぶどう等について、将来の栽培適地の変化が予測されている。うんしゅうみかんの栽培に有利な年平均気温は15~18°Cであるが、2060年代には現在の主力産地の多くが現在よりも栽培しにくい気候となる可能性が示唆されるとともに、西南暖地(九州南部等の比較的温暖な地域)の内陸部、日本海及び南東北の沿岸部等、現在、栽培に不向きな地域で栽培が可能になることが予測されている。北海道におけるワイン用ぶどう生産の適地の変化を予測した研究によれば、全球の地上気温の
平均が1990年代と比較して2°C上昇した場合、北海道の標高の低い地域で栽培適地が広がる可能性があることが予測されている。

 21世紀末まで長期的な視点で温暖化の影響を考えた際に、品質の低下や今まで栽培していた地域が栽培不適地になるというリスクが発表されている。一方で今まで国内で生産することができなかった作物が生産できるようになるなどチャンスと捉えることもできる。環境の変化は既に待ったなしという状況にあるが、新しい技術や品種などを取り入れ今の生産量や品質を維持すること、気温の変化に合わせて新しい作物にチャレンジすること、今後生産者が選択をしなければならないタイミングが来るかもしれない。

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引用元
気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~(環境省)
http://www.env.go.jp/earth/tekiou/report2018_full.pdf