有機JASに関する誤解と有機JASの本来の意味

虫食いの野菜

最近、スーパーでも有機、オーガニックと書かれた農作物を見ることが増え、「有機」がより身近な存在になっている。「有機野菜のほうが若干価格は高いが、慣行栽培で生産された野菜より有機栽培された野菜を買いたい」という購入者は少なくない。ここまで、有機という言葉を使っているが有機野菜やそれを認定する有機JASについて正しく理解されず、誤解されているケースがある。有機JASについて多くのメディアで詳しい解説や仕組み、取得方法などは解説されているため、そちらに譲るとして、有機JASの誤解やあまり知られていない部分について説明していく。

・有機JASとは
・誤解①:有機JAS=安心安全を保証するものではない
・誤解②:有機JASはGAPの下位互換
・誤解③:有機野菜は農薬を一切使用していない
・誤解④:有機JAS=安全 慣行栽培=危険
・最終判断は自身の感覚

有機JASとは

有機JASについての解説や認定方法などは他に詳しく説明されているメディアや農水省のHPを見ることでより詳しく知ることができためここでは詳細は省き簡単に有機JASについて説明する。また有機JASには4つのカテゴリーがあり、今回はその中でも「有機農産物」に限った話とする。

有機JASとは農林水産大臣が定めた品質基準や表示基準に合格した農林物資の製品につけられる認定である。有機JASの認定を受けるためには、農林水産大臣に承認された登録認定機関により、書類審査と実地検査の両方を実施し合格する必要がある。具体的には「2年以上化学的肥料及び農薬は使用しないこと
」「伝子組換え種苗は使用しないこと」ことがポイントとなっている。

有機JASの認定に合格すると、晴れて「有機(オーガニック)」と名乗ることがでるようになる。スーパーなどで「オーガニック〇〇」「有機野菜」と表示されているものは有機JASの認定を受けたものである。

逆に言えば、有機JASの認定を受けていないものは「有機」「オーガニック」という表記をしようして販売することはできない。有機JASの認定を受けずに有機JASのシールを張り販売した場合1年以上の懲役または100万円以下の罰金が課されることがある。また、有機JASの認定を受けずに「有機(オーガニック)」と表記した場合、表示の除去、販売の禁止などの命令が出され、命令に従わなかった場合、50万円以下の罰金が課されることがある。罰則も含め有機JASは厳しい基準によって定められている。

誤解①:有機JAS=安心安全を保証するものではない

産地直送野菜の画像
山本ら(2008)、峯木(2005)らの研究によれば有機JAS認定を受けた農作物については半数以上の人が「安全である」「健康に良い」というイメージを持つことが明らかになっている。

しかし、有機JAS=安心安全を保証する制度ということについては誤解である。確かに有機JASの認定を受けているほ場では農薬や化学肥料の使用が禁止(実際は使用可能)されるため安心安全や健康というイメージはもたれやすいが、そもそも有機JASは人体への安心安全や健康を保証する認定制度ではない。

農林水産省の定める有機農産物の日本農林規格の(目的)第1〜3条には以下のように書かれている。

第1条 この規格は、有機農産物の生産の方法についての基準等を定めることを目的とする。(有機農産物の生産の原則)

第2条 有機農産物は、次のいずれかに従い生産することとする。
(1)農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力(きのこ類の生産にあっては農林産物に由来する生産力、スプラウト類の生産にあっては種子に由来する生産力を含む。)を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産すること。
(2)採取場(自生している農産物を採取する場所をいう。以下同じ。)において、採取場の生態系の維持に支障を生じない方法により採取すること。

やや難しく書かれているが、簡単に説明すると「環境に負荷をかけていない栽培方法」に対する認定制度ということである。つまりこの段落の冒頭で「有機JAS=安心安全」という書き方をしたが、もし正確に書くのであれば「有機JAS=環境に対して安心安全」という表現が適切である。

一方で、農薬や化学肥料を使っていないものは、人体にとって安心安全であり、結果的に有機JASは人体にとっても安心安全ではないか?という話も出てくると思われる。しかし、あくまで有機JASという認定制度は環境に対しての栽培方法を評価するためのものであるということは覚えておきたい。

誤解②:有機JASはGAPの下位互換

ここ1-2年東京オリンピックの影響もあり、GAPやJGAPという認証制度も言われるようになってきた。GAP(JGAP)について詳細はまたどこかで記事化をしたいと思うが、ザックリと説明すると農作物の生産工程だけでなく、農家さんの労働環境や、人権保護、農業経営など生産に関わる農業経営全般に対する承認である。

特にヨーロッパなどではかなりポピュラーな認証制度で卸業、小売業についてもGAP認証を受けていない生産者、生産法人とは取引をしないという企業もあるほどになっている。

さて、GAP(JGAP)の認知度が高まるにつれて、GAPは有機JASの上位互換にように誤解されることもしばしば見受けられる。しかし前述した通り、有機JASは生産工程における環境負荷に対して認証を与える制度で、GAPは生産工程における労働環環境など比較的広域に対する認証制度である。

有機JASとGAP(JGAP)の両方の認証を受けている生産法人や生産者も存在する。また、それぞれ審査のポイント、もっと言えば認証の目的が異なるため、GAPを取っていれば有機JASを兼ねるというものでは一切ない。例えるなら自動車免許を持っていてもバイクの運転ができないように、全くの別物である。有機JASとGAP(JGAP)は目的も異なるため、GAPを持っている生産者が有機JASを持っている生産者よりも優れているとかいう類のものでもない。

誤解③:有機野菜は農薬を一切使用していない

農薬散布の様子
こちらもよくある誤解であるが、有機JASの認証を受けている野菜は一切農薬を使用していないというものである。結論から言うと、有機JAS認定の野菜であっても農薬を使用している野菜は存在する。

改めて農林水産省の定める有機農産物の日本農林規格を見てみると目的の第2条に以下のように書かれている。

化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として

ここで注意するべきは「科学的に合成」と書かれている点である。逆に言えば科学的に合成された農薬はNGだが自然由来に基づく農薬であれば使用は可能ということである。例えば「イオウフロアブル」「ICボルドー」「ハーモメイト水溶剤」などがそれに該当する。

この件については有機農産物 検査認証制度ハンドブックでも、「有機JASは無農薬栽培する制度ではない」 とはっきり書かれている。そのため有機JASだからと言って「無農薬」ということを保証する制度ではない。また有機JASの範囲内で使用が認められている農薬であっても農薬取締法に準拠し使用した日付やほ場、作物、量などは帳簿に記録しておく必要がある。

④有機JAS=安全 慣行栽培=危険

有機JASについてここまで世間的でよく誤解されていることについて説明をしてきたが、有機JASを否定するもので一切はい。ただ、一方で世間的に有機JASに対する安心安全など絶対正義のような論調がやや過剰であることも懸念され、敢えて本記事を公開することとした。

本記事でもう1つ主張したいことは、有機JASの認定を受けていない慣行栽培(農薬や化学肥料を使用した従来どおりの栽培方法)で生産された農作物の安全性である。有機JASが安心安全というイメージが強すぎて、逆に慣行栽培で生産された野菜が危ないという論調もある。実際、慣行栽培についても国の検査を通った農薬や肥料を適切な量を散布し、農薬取締法によって使用回数や量など全て記録として保管しないといけないため、かなり徹底した管理下の安全性も担保されている。

また、有機JASを敢えて取得しないという生産者や生産法人もいる。例えば有機肥料等も一切使わない自然農法を実践する生産者である。有機JASのように有機農法を認証する制度はあるが、現在自然農法を認証する制度はないし、自然農法の定義も正確になされていない。そのため、有機JASの定める範囲よりさらに「厳しい」有機農業を実践している生産者でも制度的に「有機」と書いて農作物を販売することができない。

最終判断は自身の感覚

農家の写真
今回有機JASに関するよくある誤解について説明をしてきたが、有機JASの認定を受けていようがいまいが、最終的には自身の判断による。

例えば、農薬を一切使っていない野菜を食べたいと思うことは全然悪いことではない。ただ有機JASの認定を受けた野菜が全て農薬を使用してないわけではないし、制度上「有機」と名乗れない自然農法で生産された野菜が農薬を使用していないということもある。

最終的には信頼のおける生産者から直接農作物を買うということが一番安全なのかもしれない。ただし、前述した通り、慣行栽培で生産された野菜も危ないということはなく、どこまでこだわるか?という個人の好みの部分になる。もしかすると有機で生産された野菜よりも慣行栽培や自然栽培で生産された野菜のほうが栄養価が高く美味しいということもあるかもしれない。選択に正解不正解はなく、個人の納得のいくものを選択することが健全ではないだろうか?

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