農研機構はバイオマス燃料として有用な作物であるオギススキの新品種を開発したと発表した。オギススキを燃料として使用することで二酸化炭素の排出削減や、耕作放棄地の有効活用などが期待されている。
概要
オギススキは、オギとススキの自然雑種で日本に自生している植物であり、海外ではジャイアントミスカンサスと呼ばれ、バイオマス植物としてボイラーの燃焼材などに使われていいる(山田 2013)。日本においてもオギススキの活用により、2050年カーボンニュートラル達成に大きく貢献することが期待されている。
一方、国内ではオギススキの利用はまだ限られており、普及が進んでいない要因の一つとして、オギススキは不稔性のため、種子生産ができないことが挙げられる。種子拡散により自然生態系を撹乱するおそれがない利点はあるが、草地造成のためには多くの株を増殖し移植する必要があり、労力がかかる問題点がある。そこで、農研機構は移植本数を減らすことができる株の広がりが速い新品種「MB-1」と「MB-2」を開発した。
オギススキ新品種の活用法の一つとして、バイオマス植物として火力発電所などの燃料にすることが考えられる。バイオマス植物に含まれる炭素は光合成で大気中から吸収された二酸化炭素(CO2)なので、石炭等の代替燃料として活用すれば、温室効果ガス削減に貢献が期待できる。オギススキは永年生植物であるため一度草地ができると毎年の耕起・鎮圧・播種・除草剤散布などが不要で、省力的に草地を管理することが可能であり、ロータリー耕で簡単に耕地に戻せることから、低未利用地の省力管理植物として耕地の保全にも貢献できる。また、産業利用できる有用化学物質抽出やパルプ製造の原料として利用するための試験を実施している。さらに畜舎の床に敷く敷料や家畜糞堆肥製造の副資材として畜産での利用や、おがくずの一部代替としてきのこの菌床製造への利用も想定される。現在、このような多様な利用方法を普及させるために、公設試験場や民間企業との連携を検討している。
新品種開発の背景と経緯
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。これを達成する方策のひとつとして、バイオマス植物の開発・普及がある。バイオマス植物の利活用により、温室効果ガス(二酸化炭素CO2)排出量削減への貢献が期待される。
オギススキ既存品種は、海外ではバイオマス植物として直接燃焼等に利用されている。このオギススキ既存品種は九州の在来種だが、日本ではまだあまり利用されていない。オギススキの普及における問題点は、初期の草地造成に労力がかかることで、オギススキは種子を作らないため、栄養繁殖により多数の株を増殖して移植するという過程が必要で、既存品種では1haの草地を造成するためには1万本の苗を移植する必要がある。
このような欠点を補う特性を有するオギススキの新品種を開発するため、農研機構では2011年から日本各地で自生系統を収集して特性評価や交配育種を実施してきた。その研究過程で2012年に採集した栄養系「MB-1」と「MB-2」が、農研機構東北農業研究センター等での栽培試験で優れた草勢を示し、生産力などの優秀性が確認できたので、2021年に品種登録出願した。これらは既存品種より株が広がりやすく、かつ多収で、草地造成がしやすいという特徴を有し、株の広がりが速いため移植する苗の数を通常の1/4に減らすことが可能で、栽培管理上の作業量を大幅に減らすことが可能となる。
新品種「MB-1」と「MB-2」に共通する特徴
• 株の広がり
既存品種と「MB-1」「MB-2」の株幅を比べると1年目、2年目および3年目とも既存品種よりも株の広がりが2倍程度速く広がる。両品種の3年目の株幅は、既存品種の3倍。そのため、既存品種は100cm間隔で移植し、4年目に株が繋がるが、新品種は200cm間隔で栽培しても3年目に株が繋がる。この特性により新品種は、200cm×200cmに1本移植すれば良いため、通常の100cm×100cmに1本移植するのと比較して、移植株数を1/4程度に減らすことができる。
• 収量性
「MB-1」と「MB-2」の収量は、移植1年目~3年目で既存品種よりも多収です。特に両品種とも移植した1年目の生育に優れるため、雑草の侵入が既存品種よりも少ないことが特長。
• その他特性
・倍数性: 両品種とも、倍数性は、既存品種と同じ三倍体。
・稈の長さと茎数: 稈の長さと茎数は、両品種とも既存品種と同程度。
今後の予定・期待
1:カーボンニュートラルに向けて温室効果ガス(CO2)排出量削減への貢献
オギススキは、海外ではバイオマス植物として利用されている。日本においては東北地域でのバイオマス植物として、活用が期待されている。火力発電所などで「石炭との混焼」やバイオマス発電所での活用が想定される。
植物・植物由来の燃料は燃焼してCO2が発生しても、その原料植物は成長過程でCO2を吸収しているためライフサイクル全体でみると大気中のCO2は増加しないことから混焼時においてCO2排出量の削減が可能となる。
2:産業原料としての貢献
産業原料として利用する場合、オギススキはトウモロコシなどに比べると栽培に大量の燃料や資材を投入せずに、同程度の収量を確保することが可能。将来的にバイオマス燃料のほか、糖、シリカ、パルプ等の産業原料として利用される可能性がある。
3:耕地の省力的管理技術
オギススキは、初年度苗を移植した後は、年1回の施肥と収穫だけですむため、他の作物と比べて圧倒的に省力管理が可能。さらに、オギススキはロータリー耕により比較的簡単に耕地に戻すことが可能。オギススキは土壌水分が十分にあるところで本来の能力を発揮するため、耕作放棄水田等の省力的な保全技術として活用可能。。
4:畜産利用
オギススキを秋に収穫しロールベールにしたものは、嗜好性は高くないが繁殖牛などの飼料として活用できる。また、3月以降に収穫したオギススキは、十分に乾燥しているため、敷料、堆肥の水分調整材などにも利用可能。
5 :キノコ菌床への利用
既存品種は菌床のおがくずの一部代替として利用することができ、オギススキが入ることによりシイタケのサイズを大きくする効果があることが分かっている。新品種についてもおがくずの代替としての利用が期待される。