農人No.13 株式会社ぽてともっと お届けします東京農業 森田慧さん

 今回紹介するのは株式会社ぽてともっとの森田慧さん。今年の2月から会社を創設し、agri.TOKYOという都市農業メディアを3月から立ち上げた。「お届けします東京農業」をコンセプトに、地域を都市部、特に東京に絞り、農業生産者や都市農業関係者を取材して回っている。なぜ彼らは東京に絞って農業を盛り上げようと思ったのか。代表の森田さんを取材した。
そもそも、都市農業については何かといえば、例えば東京など都市部の中に畑が存在しているような状況を指している。食糧生産機能に留まらず、景観の保全や食育・教育機能、防災機能など地方の農業とは異なる存在価値を果たすことが求められており、保全の対象ともされている。

野菜作りに没頭した少年時代
 森田さんは、東京生まれの東京育ちで、もともと農業との関わりはなかった。地元は東京の下町で、家の周りには公園がない代わりにポットで野菜や果物を作っている家庭がたくさんあったという。それを日常的に見ていた森田さんは、自分でも野菜を作ってみたいと自然に思うようになった。家はマンションではあったが、自分でもやってみたいという好奇心でポットを使って野菜作りを始めた。近所のホームセンターで資材や種を一通り揃え、トマトやナス、キュウリなど一般的な夏野菜を中心に育てた。時には柿の木も家で育てていたそうだ。
中学・高校でも農芸部に入り、学校内の2m×3mほどの小さな区画で6年間野菜を作り続けた。木の下の日陰にあったので、なかなか野菜が育たず苦労したのだという。しかし、その中で周りの学生が興味を持ってくれたことから、「都会に住む同年代の人は農業に潜在的な興味を持っているのではないか」と感じ始めた。

農業サークルぽてと創設、農業に励む日々

大学は政治に興味があったことから、一橋大学の法学部に入学した。当時の一橋大には農業サークルが存在しなかった。高校の時から農業に潜在的な興味を持つ人が都会にはたくさんいることに気づいた森田さんは、自分でサークルを作ることを決意する。
 「最初はTwitterで人集めをしました。説明会には100人近くが来てくれて、こんなにたくさんの人が興味を持ってくれるとは思っていませんでした。」という。こうして初年度は総勢30名ほどの農業サークルぽてとが誕生した。まず畑を探すために、市民農園をひたすら当たってみたが、全て受け入れは不可。人気のため、空きがなかったのだという。そして、唯一受け入れの許可が出たのが、国立はたけんぼを運営する小野さんだった。活動として、小野さんの畑の一部を借りての野菜作りをして大学祭で販売したり、農業系のフィールドワークを行った。

株式会社ぽてともっと創設へ

活動を続けていく中で、小野さんやエマリコくにたちの菱沼さんといった都市農業を盛り上げる先駆者達を身近に目にしていた森田さんは、徐々に自分ももっと大きな形で農業に関わりたいと思うようになり、2018年からはアグリツアーを任意団体として企画したりしていた。そうして自分が影響を受け続けてきた農業界に関わり、より多くの人に農業を身近に感じて欲しいという思いが一層強まり、2019年2月に株式会社ぽてともっとを創設した。
都市農業の魅力がまだまだ伝わらない現状に対する最初の事業としてagri.TOKYOを立ち上げ、学生のライターを募集して都内の農家を取材して回っている。「発信力」を上げることが彼らのキーワードであり、まずはメディアとして農家一人一人の魅力を発信することから始めたのだそうだ。森田さんはカメラが趣味なこともあり、都市農業の魅力が詰まった綺麗なサイトができている。先日のUrban Farmers Summitでは着ぐるみを着てagri.TOKYOの看板を持ち、かなり目立っていた。

都市農業の役割を大切にしたい。

「正確にいうと、市街化区域内の農地を中心に取材をしています。都市農家は、一種の矛盾を抱えています。マクロ的に見れば、生産量を考えて東京で農業をするのは非効率であることが多いのですが、それでも東京で農業をやっている人には食糧生産以外の理由があってやっているんです。取材を続けているうちに、彼らの一人一人の持っている哲学的な側面にもより魅力を感じるようになりました。なぜ東京に絞っているのか、僕自身も常に問い続けています。」都市農家は消費地に近いからこそできることがあり、農業者の考え方がより複雑な思いがあって面白い。都市農地には食育の場、災害時の避難場所、緑化の場など、都市だからこそ果たせる役割が多くあり、その公益的な側面は強い。

東京農業の課題は複雑
「本質的な課題は、相続税が高いため相続発生時に農地が宅地化されてしまうことであると思いますが、「農業」という側面ではそれに比べると大きな課題はないのでは?と思っています。」確かに限られた面積で生産する都市農家の場合、農業以外の収入を得ているケースが多い。消費地と生産地が近いことが東京農業の魅力の1つである。消費地が近いことから新鮮な野菜を食べることができ、また近年流行っている農業体験にも参加しやすい。東京の都市農業は魅力的な部分が多く、農業をより身近に感じられるということから、農業そのものの魅力を知ってもらうことにもつながる可能性を秘めている。
しかしその受け入れ環境が十分に整備されていないことが課題であると森田さんは言う。実際、農業をしている農家であっても都会で生活する人から農業が魅力的なものとして思われているということに気付いていないケースも多い。つまり、消費地に近いとはいえまだまだ東京農業に一般人が参加していくきっかけがなく、都市農家との関わりを持っている一般の人はほんの一握りしかいない。もちろん中には観光農園や体験農園を展開している農家もかなりあり、一般の人を受け入れる体制をつくろうとしている農家も多いが、接客に手間がかかるのと慣れていない部分もあるので、そう安易に畑に人を呼ぶことはできないのである。

今後の展開について
現在のメディア事業の収益化はこれからだそうだ。
「今後も東京農業の世界で仕事をしていきたいと思っています。都市農業の魅力を最大化させるための場を作り、東京の農業を将来にわたってつなぐ存在であり続けたいと思っています。」

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