今回紹介するのは株式会社シェアグリの井出さん。シェアグリという、農作業を体験したい人と繁忙期に人手の足りていない農家をマッチングして働いてもらう事業を今年から本格的にリリースし、現在全国8箇所に支部を設けて事業を拡大している。
種苗会社の家庭に生まれる
井出さんは、1996年に長野県佐久市の代々続く種苗会社の家庭に生まれた。幼い頃からスポーツに打ち込み、高校時代はサッカー一筋だったという井出さん。大学受験の直前までサッカーの大会が続き、進学のことを考える暇がなかったほどだそうだ。大学は推薦で玉川大学に入学し、実家関係が農業系ということで何となく農学部を選んだ。
今年の4月まで在籍していた研究はアグリテックの分野で、衛星リモートセンシングを作物の収穫適期の予測に生かす研究をしていた。卒業した今でも大学を手伝っており、将来的に自分たちの事業にも連携させながら社会実装もしていきたいのだそうだ。
地元をどうにかしたい
大学に入ってから、井出さんは地元に貢献したい思いが一層強くなったという。子供時代から「実家が会社を経営しているなら、井出くんは将来安泰だね。」といったように言われることが多かったそうだが、彼はそこに違和感を感じていた。確かに社長の職を自分が継ぐことは昔から今までずっと頭の中にあるそうだが、農業の未来には暗いイメージが強く、今の自分の力では人口流出の続く地元に貢献することはできないのかもしれないという危機感を感じていた。そこで、0→1で事業を立ち上げる経験を若いうちに積みたいと考えていたのだそうだ。
彼は大学2年の頃から、地元で身近に見えてきた課題を1つ1つ拾って、個人事業主としてAirbnbの運営代行や軽井沢での民泊の運営、首都圏の学生と地元の面白い会社をつなぐツアーの企画など、様々な活動を行ってきた。「目の前に見えていた地元の課題を1つ1つ解決してみて一番しっくりくるものを探していたところ、最終的に自分の中で残ったのが農業でした。」農業への課題意識が強まっていた。
一般就職をせず、自ら起業の道へ
まず井出さんは、研究でもあった収穫期の予測技術を用いて農機をシェアリングする事業案にチャンスを見出した。しかし、実際に事業化しようとしてみたところ壁にぶつかった。農家からすれば、いきなり実績のない学生に高価な重機を預けられるかといえば、心理的ハードルが高かったのだという。
そこで、他に自分が解決できそうな農家の課題を聞いて回るうちに、繁忙期の農家には短期で労働力を雇える手段がないという課題を耳にした。農家が通年で人を雇うほどの人件費は出したくないが、一時的に人が欲しい時期はある。今までの農業の労働力といえばシルバー人材など比較的プロに近いレベルの人たちが多かった、その方たちも高齢化は進み、今十分に農業の人手を雇えない状況にある。
そこで、井出さんが目をつけたのは農作業を体験してみたい人たちだった。東京でも渋谷の屋上に土を運んで菜園をやる人がいるくらいにニーズが都会では顕在化してきている。更に自らは畑を借りる人も増えており、農業を体験してみたいと思う人は増えている。そこで、井出さんは農業を体験してみたい人と農家がマッチングすれば、農家の人手不足問題を解決できると考えた。実際、農業の生産現場では専門的な知識や熟練の技術が求められるが、草取りや収穫などの簡単な作業であれば、一般の方でも十分に農業の戦力になり得る。
さらに、農作業の手伝いに参加した方が、あとからその農家さんの作る野菜を購入したり、SNSで農家さんの情報を発信したりするなど農作業後も関係が続いているという。井出さんは以前より農業界はやや閉鎖的な構造になっていることにも課題を感じていたそうだが、農作業の手伝いを窓口に、農業に関わる人、つまり農業関係人口が増えることで、農業界が活性化していくのでは?とも考えていると話してくれた。
つまり、ただの手伝いではなく、そこから農家との関係性が生まれその輪がどんどん人がっていくのである。そんなことを考えていたとき彼は大学4年で就職先も決まりかけていたが、この案をガイアックスのビジネスコンテストでピッチしたところ、同社からバックアップを受けられることが決まり、起業を決意した。両親の反対もあったが、それよりも自分のワクワクが上回っていたので迷いはそれほどなかったという。こうして株式会社シェアグリが誕生した。
一気に拠点を広げ、自らの立てた仮説検証を開始
労働力のマッチングの仮説を検証するために、井出さんは全国にネットワークを拡大し始めた。現在は長野だけでなく千葉や神奈川、宮城、沖縄にも学生を中心にコーディネーターを集めたり地域おこし協力隊と組んで支部を設置しており、各支部でメンバーが動いているのだそうだ。今では全国の農家と体験者300人近くのFacebookグループやLINE@を用いて拡大したネットワークを中心にした事業を進めている。
事業を始めてわかったことは、「週末に農業をしたい」というニーズはかなりあるということだ。「週に一回でも月に一回でも、農業をして体を動かして無心で作業をしてみると終わってみればすごく気持ちいいし、枝豆農家さんのところに体験に行っていただいてきた新鮮な枝豆と一緒にビールを飲んで過ごすとかできたら最高だと思います。」と井出さんは言っていた。今は、農家に行きたい側の人たちが集まってきたので受け入れてくださる農家をどんどん増やしていきたいのだという。
見えてきた今後の可能性
検証を進めるうちに、農家側にも様々なニーズがあることが分かってきた。井出さんからすると、今の事業そのものはきっかけ作りに過ぎない。今後は、拡大したネットワークを通して農業研修の斡旋をしたり、お金で困っている新規就農者が他の農家に手伝いに行きながら経験を蓄積させられるようなサービスを作ったりしていきたいのだそうだ。つまり農家と農家のマッチングである。生産する作物によって繁忙期と端境期が異なる。そのギャップを利用して他の農家のところに手伝いにいくのである。また農家も他の農家から学びたいというニーズがあり、農家同士のマッチングサービスも検討しているという。そして農機をもシェアリングできる段階まで視野に入れているそうだ。
間口を広げれば可能性に溢れる農業界
「今の農業界は、ポジティブな可能性があるのにまだまだ業界の方が可能性を感じていないことがもったいないように感じます。アグリテックなどテクノロジーもこれから入るだろうし、しっかり農業で儲けている人もいるのに、内部の人農家さんは忙しいのもあって自分のことしか見れない構造になっているケースが多いです。今まで閉鎖的な構造にしてきたからこそ、可能性をもっと見いだせると思います。」まだまだ農業という業界への間口が狭いままであることに課題意識を感じている。これから彼の事業で間口が広がり、より多くの人が農業に関わる世界を作り、オンラインとオフラインを融合させた農家の本当のファン作りもしていきたいと考えているのだそうだ。
今後、農業関係人口の増加を通じて日常的に労働力に限らず、誰もが農業をしている人を身近に感じられるような世界を作っていきたいと考えているのだそうだ。これから彼が今後作り上げたつながりを通して大きな動きを生み出してくれるかもしれない。
最後に農家の方へのメッセージをお願いします
私たちと一緒にサービスを作り上げて新しい動きを作っていく農家さんを募集中です。この事業は我々の力だけではとても成功できません。私たちは全国に広げたネットワークを通して忙しい時期にも人を紹介できますし、今後も農家のためになるサービスを試行錯誤していきます。人手が欲しい時期には、なるべく早め(できれば1ヶ月前くらいが理想ですが、1週間前くらいでも可能だそうです。)に連絡をいただきたいです。外部に関わることにハードルを感じている方も多くいらっしゃるかと思いますが、単に労働力としてだけではなく、本当に農家のためになるようなサービスを作り上げていきたいと思っています。
ご利用してくださる方は、シェアグリのホームページ(https://sharagri.studio.design/)のフォームからご連絡をいただきたいです。
作業内容は、単純作業が向いているかと思います。例えば防虫ネットの片付け、草抜きや梨の花粉付け、キャベツの収穫や果樹の摘果などが今までの例としてあります。任せやすい作業でご相談ください。よろしくお願いいたします。
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