農人No.10 seak株式会社 人の持つ可能性やエネルギーを引き出していく 栗田紘

seak 栗田さん

今回紹介するのはseak株式会社代表取締役の栗田紘さん。LEAPという新規就農者が誰でも成功できるという農業のフランチャイズモデルを展開している。本格的なリリースは今年秋からの予定だ。

 新規就農者側はファーマーと呼ばれており、1人の経営者として現場での作業に従事する。このサービスのすごいのは、徹底した就農前のプロセスとその後まで行き届いたサポートである。単に栽培ノウハウを提供するだけでなく、ハウスの種類まで指定した施設栽培と袋栽培による徹底したデータ管理、就農場所を決定するまでの斡旋のサポート、就農のための資金借り入れをするサポートまでを行う。さらに、できた野菜は「ゆる野菜」という独自ブランドとしてseak側が用意した販路に出荷される。LEAPのサービスを使えば、これ一本で全て農業経営を確立できてしまうというものである。
 今回は、そんなLEAPを作るに至った栗田さんの思いを取材させていただいた。取材を通して、栗田さんの意外な経歴や異端児的な行動力、そして農業に対する熱い情熱が見えてきた。

もともと農業とは無縁の出自だった
 栗田さん自身がこのサービスの第一号のユーザーなのだという。神奈川県横浜市出身の栗田さんは、東京工業大学を卒業後、大手広告代理店である電通に入社した。当時は農業の世界には全く関わりがなかったという。しかし、BtoBで事業者の間に入っていく広告のビジネスに対して物足りなさを感じていた。そこで、シリコンバレーでの働き方やサービス改革などが流行り出した2012年ごろ、自分の力で0→1の事業を立ち上げることを決意し退社する。
栗田さんは自身でシリコンバレーの状況を確かめようと、西海岸で起きているトレンドについて情報を集めている。自分にとってそれが一番プラスな道だと確信していた栗田さんには7年間勤めた電通を辞めることへの抵抗はほとんどなかったのだという。
 
ものづくりに対して強い関心を持った栗田さんは、自ら即決で次世代型電動車椅子を作っているスタートアップであるWHILL(株)に飛び込んだ。WHILLには1年間ほど勤務し、スタートアップのサイエンスをインプットした。社会で誰もが求めていることだからこそ、成功確率は高いということを感じたのだそうだ。
 その後、栗田さんは農業という業界に対してトレンドの到来を感じた。当時日本では、社会全体で抱えている課題として農業が上げられるようになっていた。高齢化問題や農業者人口減少が大きくフィーチャーされることが増えてきていたのである。ここに栗田さんはチャンスを見出した。

自ら就農し、農業の世界へ
農地で話をする栗田さん
 身内が体調を崩したことをきっかけに、さらに農と食に対する関心を強めた栗田さん。農業の課題がどの部分にあるのかについて考えるうちに、本質的に眠っている課題が川上である生産にあるのではないかという考えに辿り着いた。そして、農家になると言う選択肢を取る。

「戦略的なポジショニングを取るという側面もありましたが、何より自ら、0→1を実現するために農家になっちゃったんです。」と栗田さん。しかし、当時栗田さんの農業経験はゼロ。2年間の研修を受けた後の2015年に地元である神奈川で新規就農した。
 
都会出身であった栗田さんは、都会にある人工的な幸福とは対極にある自然の世界に対する渇望のようなものをもともと感じていたのだそうで、農業の世界にどんどん引き込まれていったのだという。しかし、実際に一年以上就農してみて分かったのは、農業に新規で参入する障壁の高さだった。「自分で新規就農してみて、必要な知識や技術がとても多くて、他の新規就農する人にもそのような技術や知識を提供してあげれば、彼らの活躍の可能性も上がると思ったんです。そこで、自分にとって必要なものを揃えたのがLEAPなんですよね」こうして栗田さんはLEAPの第一号ユーザーになった。

2019年秋から、本格的にLEAP展開へ
LEAp
 新規就農者として抱える課題を自ら乗り越え、その中で栗田さんは、新しく農業参入することへの難しさを感じていた。そこで、自分が新規就農した時と同じ苦労をしている新規就農者が周りにたくさんいたので、最初は自らの経験をクローズドにシェアしていたのだという。新規就農者の抱えている問題には似たものが多い割に、作業にそのノウハウがお互いにシェアされることは意外と少なかった。
 
そこで、これをプラットフォーム化すれば農業の課題を解決できるようになるのではないかと考えた。今の農業の課題は収益化ができないことであると確信していた栗田さんは、仕事としての農業を実現することの必要条件を考えると、大きく二つの課題があると考えた。一つは収益で、実際に新規就農者の約4割が年収100万円未満という非常に厳しい収益性になっている。もう一つは時間で、10年でようやく1人前と言われるように、農業はサイクルが長いので収益化までのリードタイムが長い。そこで、袋栽培とハウス栽培により変数を減らしたデータドリブンでPDCAを回す農業のモデルを思いつく。データ産業としては遅れていたこの業界で、データを収集するために自社の農場を増やした。そして、LEAPの実践者でもある運営メンバーを増やしながら社内でR&Dを始め、研究と実証を繰り返している。「サービスとしては今年の秋頃から本格的に展開する予定でして、今はその準備でめちゃくちゃ忙しいんです(笑)」

優秀な農家を増やしたい
畑を見る栗田さん
人の持つ可能性やエネルギーを引き出していくこと。これは栗田さんの人生のミッションなのだそうだ。seakの理念にも表れている、農業をやる人の可能性を広げ、彼らのエネルギーを最大化させるという考え方にもこれが繋がっている。現在の農業は、仕事として成立させられていないケースも多い。「農業で生計を立てられるベースがなければ、農業を通して自己実現を目指すのは難しい。だからこそ、今後農家が生き残っていくためにはファーマーの一人一人が優秀な農家として成長していってほしい。」と栗田さんは言う。

だからこそ、現在はハウスに絞って一部地域で展開しているが、今後は蓄積したノウハウを生かして品目を増やしたり、エリアを広げて海外にも技術を輸出して進出するのだそうだ。既存の農業とは全く違う考え方であり、業界に受け入れられるまでは時間がかかるかもしれない。しかし、共存することで生き残っていける勝算はあるのだという。LEAPの利用者には若い人が多く、平均年齢は20代後半なのだそうだ。若い力で今後彼らが農業のあり方を変えていくのかもしれない。

農業にはチャンスしかない。
栗田さんはこの業界に可能性しか感じていないそうだ。「今の農業にはチャンスしかないと思います。昨今の農業ではごく少数の人が大きな勝ちを手にしています。産業として大規模化していく農業には勝ち筋がある程度決まっていて、それを純粋に忠実にやりきった人が勝てる業界。だからこそLEAPとしても勝ち筋は見えているんです。」

また日本のみならず海外にも今後テクノロジーを導入していけば、リープフロッグ現象的に状況が一変し、生産性が一気に上がるのでどんどん規模拡大していける。経営面の観点が入っていなかった業界であるからこそ、勝ち筋があるのだという。世界全体の食市場で見て生産部分に対するマーケットのニーズが高まっているからこそでもあろう。今後もseakは、品目やエリアを広げてバリューチェーンを伸ばしていくのだそうだ。

これから農業を志す人にメッセージをお願いします。
「これからの農業は自分がどの山を登っていくのかを決めることが重要です。小さい農で農業+αで農ある暮らしを目指していく山を登るのか、本当に仕事として成立させられる農業としての山を登るのかでやり方は全く変わってきます。農業を志す際には自分がどんな農家になりたいのかをはっきりとイメージできていないケースがあるかと思います。自分が農業をどうしていきたいのか、自戒も込めて、どの山を登るか出発点を自分で定義しておくことが大事になると思います。

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