害虫から植物を守る新タイプのタンパク質機能を発見

クワの葉

 農研機構は、クワの乳液中に含まれるタンパク質が、昆虫の消化管内の囲食膜という薄膜を異常に肥厚させて消化を抑制し、成長を阻害することをはじめて明らかにしたと発表した。クワの葉や葉茎から分泌される乳液内に含まれるMLX56タンパク質はカイコ以外のガの成長を阻害するため、カイコの餌として利用されるが、他のガには食べられないということを科学的に明らかにした。

 一般的に植物は動くことができないため、昆虫などから食べられることを防ぐために、昆虫にとって毒になるタンパク質を分泌することが知られている。その生態を利用し、害虫を防除するための薬剤としても利用されてきた。しかし近年では、そのような薬剤に対して抵抗性を持つ害虫も出現しており、新しい作用効果のあるタンパク質の解明が求められていた。

 そこで農研機構は、クワの葉や葉柄の切り口から分泌する乳液中に低濃度(0.01-0.04%)で昆虫の成長を阻害するMLX56という新規タンパク質を発見した。このMLX56というタンパク質は以前よりカイコ以外のガ類(エリサン、ヨトウガ、ハスモンヨトウ、コナガ)などの害虫を含む多くの昆虫の成長を阻害することが分かっていたが、そのメカニズムは解明されていなかった。
 そこでMLX56様タンパク質(MLX56およびMLX56同様にクワ乳液に含まれることが後に判明したMLX56と酷似したタンパク質LA-bの総称)がなぜ昆虫の成長を阻害する活性を持つのか、そのメカニズムを解明する研究に取り組んでおり、その結果今回そのメカニズムを解明した。

 農研機構ではエリサンというガの幼虫に、MLX56様タンパク質を含む餌を食べさせると、0.01-0.04%という非常に低濃度で加えた場合でも、顕著に成長を阻害することがわかった。具体的には、昆虫の消化管内には、囲食膜というチューブ状の薄い膜が、食物を包むように存在しており、MLX56を摂取すると、この囲食膜に特異的に結合して肥厚させ、消化不全を引き起こすことが分かった。

 囲食膜はキチンというN-アセチルグルコサミンという糖が重合した高分子でできており、脊椎動物には、囲食膜もキチンも存在しないため、MLX56様タンパク質や、それを原料とする薬剤が発明された場合でも、家畜や人体に無害である可能性が高いとされている。今後は同様の働きを持つタンパク質を植物から探索したり、構造を変化させた人工タンパク質を合成したりすることで、より活性が高い害虫成長抑制剤を開発し、農作物保護に役立てることを目指す。

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