都市農業というワードはあまり聞き慣れないワードかもしれない。都市農業は住宅地に近く田畑も拡大できないし、固定資産税も高い、緑地法の優遇制度が切れる2022年問題・・・一般的に農業において「不利」とされる都市農業。しかし、そんなフリな都市農業も見方と発想の転換で一気に面白い場になる。そんなノウハウ、そして都市農業を取り巻く状況などを解説した「東京農業クリエイターズ」という本を紹介する。
都市農業は不利
日本において「都市農業」の明確な定義はないものの、田畑が住宅地に隣接していたり、消費者との距離が近かったりというものを一般的に都市農業と呼んでいる。非常に荒く言えば住宅地の近くにある畑である。
戦後、東京23区や多摩地区の人口が多い区域では、都市における農地はいずれ住宅にすることを前提に整備が続けられてきた。そのため住宅需要の高まりとともに地価が上昇し、都市内における農地も固定資産税が増え、農地を手放し農地が減少してきた。そこで1992年に制定された生産緑地法(1974年制定)では、土地の持ち主が自身で生産を続けることを条件に生産緑地の指定を受け、固定資産税が農地並に安く抑えられる措置が取られた。
固定資産税は安く抑えられたものの、それでも都市部における田畑は道路や住宅により分断され東北や北海道のような大規模化による効率化は難しく、思うように面積も拡大できず、農「業」において「不利」な状況は変わらない。
見方を変えれば都市農業はメリットだらけ
しかし、そんな不利だらけの都市農業もすこし見方を変えるととても面白い場へと変わる。先ず都市農業の特徴は住宅地に近いこと、見方を変えれば都市の畑は少し足を伸ばせば直ぐに行けるアクセス性が高い。そして、消費者が近くにいるのだから、新鮮な野菜や果物を届けることができる。
そのような逆転の発想で、様々な農サービスを展開しているのが「東京農業クリエイターズ」の著者である小野さんである。小野さんは国立市の谷保駅から徒歩10分程度のところにある300坪ほどの畑「くにたちはたけんぼ」を運営している。周辺にはもちろんのことながら住宅があり高速道路のICも近くにある、都市部における農地である。そこでは年間を通じて様々なイベントが開催されており、例えば
・畑で収穫体験とBBQ
・畑で婚活
・畑で忍者体験
などである。
畑でBBQまではイメージがつくが、婚活、忍者体験・・・と段々と想像することすら難しくなる。しかしこれらイベントは毎回人気で直ぐに予約が埋まるという。
農業をする上で決して広くない面積、周辺には住宅地という環境なかで純粋に生産量だけで収益モデルではなく、「農サービス」という新しいビジネスモデルを展開する「くにたちはたけんぼ」。詳細についてはネタバレになるため触れないが、そのノウハウや農サービスのキモが「東京農業クリエイターズ」には出し惜しみすることなく書かれている。
都市の里山
そして、最後に触れておきたいのが都市農業は都市における「里山」という考え方である。
里山というと田舎の田畑に面した雑木林をイメージする方も多いと思う。里山から取ってきた枝や落ち葉を堆肥として利用し、切り出した木は燃料に、また季節ごとにとれる山菜やきのこ、木のみなど先祖は里山から様々資源を享受してきた。しかし、都市における田畑も実はそんな里山のような機能を有していると著者の小野さんは本の中で語っている。
都心の畑には季節ごとに異なる動植物が集まり、様々な野菜や果物を我々に供給してくれる。更に、そこに人が集まりコミュニティが生まれ都会生活に疲れた我々のストレスを和らげてくれる・・・・。そんな都市部の畑、都市農業は全く新しい可能性を示してくれている。そんな可能性に果敢に挑戦し、実際に活躍している人々も本の中で紹介されている。
農業に関心があるという方も、農業や食で起業したいと思っている人、コミュニティビジネスに興味がある人、そして今後の都市農業の未来に可能性を感じている人には是非おすすめの1冊である。
東京クリエイターズ
http://hatakenbo.org/infomation/20180518_tokyonogyocreators
▶関連記事
2017.09.10
【初心者向け】農ledge編集部が選ぶ、農業や農業ビジネスおすすめの本10選