10日農研機構は株式会社カネカと共同で、コムギを使って植物個体に遺伝子を直接導入する技術を開発したと発表した。今回発表された技術はこれまで遺伝子導入が難しかった様々な小麦品種に実用可能で、今後の小麦の品種改良が加速することが期待される。
世界的に連続的な気候変動が起きており、今後それら環境ストレスに抵抗性をもつ作物の研究開発がますます求められてる。しかし、作物への遺伝子導入は依然として難しく、コムギ、オオムギ、ダイズ、トウモロコシなどでは、ある特定の品種にしか遺伝子導入ができず、国産の主要品種には不可能な場合がほとんとなっている。
植物体に遺伝子を導入する技術としては、アグロバクテリウムを植物体に導入するアグロバクテリウム法や金粒子表面にDNAを付着させ、高圧ガスの力で植物細胞にDNAを導入するパーティクルボンバードメント法が一般的である。しかしそれら方法は培養や植物体の再生などが必要となり、その過程が非常に困難となっており、特に優良形質を持った多くの作物の実用品種では、培養や個体再生の効率が極めて低いため、これまで遺伝子導入をより難しくしていた。
そこで、農研機構と(株)カネカでは、培養細胞を使わずに植物個体に直接遺伝子(DNA)を導入する技術の開発を進めてきた。具体的には植物の芽の先端(成長点)にある L2(エルツー)層と呼ばれる未分化細胞層があり、L2層の細胞に遺伝子を導入することにより、生殖細胞を通じて、次世代で遺伝子が導入したコムギ個体を得るという方法である。この方法をiPB(アイピービー、in planta Particle Bombardment)法と命名された。
iPB法は実験用のコムギ品種に加え、これまで遺伝子導入が困難であったコムギ実用品種にも効率よい遺伝子導入が可能となる。実験用品種「Fielder」では、全個体の0.9%で遺伝子が導入され、実用品種である「春よ恋」でも0.7%で遺伝子が導入されたことが分かった。今回開発されたiPB法はゲノム編集にも応用可能でありトウモロコシ、ダイズ等他の作物への導入も期待されている。
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