農人No.09 株式会社ukka 100年後に続く食と農のあるべき形を創る 谷川佳・小林俊仁

今回紹介する農人は株式会社ukkaの谷川佳さんと小林俊仁さん。2人はOWNERSという農業を中心とした一次産業のオーナー制度プラットフォームを運営している。ただ野菜や魚を買う消費者ではなく、生産の裏側まで思いを馳せることができる当事者を増やしていく、そんな事業を展開している2人に話をうかがった。

知るだけでなく納得感を持ってもらいたい

 現在、共同代表として2人で株式会社ukkaを経営している谷川さんと小林さん。二人三脚で今の事業を展開する2人だが、実は OWNERS 自体は谷川さんがほぼ一人で立ち上げた事業だった。
 最初事業を立ち上げた谷川さんは大阪府出身。大学卒業後、PRなどを専門に行う会社に就職した。クライアントには地方自治体もおり、全国を回って地元の産業や観光などのPRをしていたという。
「当時は全国の地方自治体や食品企業がクライアントで、プランナーとしてPRや販売戦略などの企画事業を請け負っていました。まとまった予算をいただき、PRしていくと、その地域やその地域の産業の認知度は上がりますが、本質的な解決にまでつながらないことが多くジレンマを抱えていました。実際に、その地域で仕事をしている農家さんなど個人までにはフィーチャーすることは難しく、また、生産者個人で販路開拓やマーケティングを行い、売上を伸ばしたりできるわけではないという課題も感じるようになっていきました。」
と谷川さんは話してくれた。

 谷川さんいわく、PRして認知度を上げても、東京など都心部で生活している方に地方に美味しいものがあることを知ってもらえる一方、1回食べたら終わりというだけで、継続的な関係は生まれづらいように感じていました。一時的な満足感しか持ってもらえなかったことが多かったという。
「全国各地域には、その土地でしか作れない食材を、こだわりを持って作っている生産者さんが沢山います。そういった生産者さんのストーリーやこだわりを伝えて、作り手とのつながりも感じてもらいたい。その結果、新鮮で美味しい食材を手にしてもらえるような仕組みを作りたいと思うようになりました」
と谷川さん。そのような想いから生産者と消費者が新しい関係を作り、商品が流通する仕組みとして「OWNERS」を構想し、既に会社を辞めて無職状態だった中でとある会社に事業を持ち込み、その会社の新規事業としてOWNERSを立ち上げた。

「当時はまだ企画書しかなかったですが、最初はとにかく全国の農家さん電話営業をして、現地へも足を運んで、サービスの内容を説明することを繰り返しました。OWNERSという仕組み自体が新しいものだったので断られることも多くありましたが、一方で、やる気があって将来に危機感を持つ生産者さんほど、反応はよく手応えも感じていきました。とはいえ、当時の収入は社会人になって過去最低でしたし、精神的にも全国を1人で回るのは辛かったですけどね(笑)」と谷川さん。こうしてOWNERSは生まれた。

同じ想いをもった2人


谷川さんがスタートさせたOWNERS。全国の農家さんを回る中で、農家さんにある人物を紹介してもらうこととなる。それが後の共同代表となる小林さんだ。
小林さんは三重県出身。祖父母が農家で、もともと農業には親しみをもっていた。そんな小林さんは、起業したり、コアメンバーとして創業から関わっていた会社をマザーズ上場に導いたりと事業家としてのキャリアを歩んでいた。特に日本と世界というマクロな視点でビジネスを考えたときに農業に注目するようになったという。

「日本の人口は今後減少し、食料に対する需要も減りますがその需要が0になることはありません。また農家さんの数も減っていますから、これからは少ない農家の件数で今の需要をカバーしないといけなくなります。農家の生き残る道は、低コストで大量生産するか、より高付加価値化するかの2択になる。特に後者の農業、有機とか1つ1つ丁寧に手作りしている野菜や果物は貴重品になっていくにも関わらず、それに適した流通が無いと思いました。一方ヨーロッパや北米では、生産者個別の情報をしっかり伝えつつ、グループ購入やロジの共有化で中間コストを削減することで農家直販を実現するようなサービスが出てきており、この流れは日本にも来ると確信していました」と小林さん。

 小林さんはそんなことを思いながら、そういった手間のかかった野菜や果物の販売ができないか?と思い、小林さんも農家さんにプレゼンしながら回っていたという。そんな中である農家さんに紹介してもらい、出会ったのが谷川さんだ。
「私の考えていたビジネスモデルと、谷川が OWNERS をこのように発展させていきたいという将来像が完全に一致していました。私は会社を立ち上げるつもりでしたし、谷川も独立の機会を伺っていました。同じ時期に同じようなベンチャーを別々に立ち上げるくらいであれば、一緒にやりましょう、となっていました。」と話してくれた。
こうして、小林さんと谷川さんは新たに株式会社ukkaを立ち上げ、OWNERSを以前の会社から譲渡してもらうかたちで新OWNERSがスタートした。

強みを活かした二人三脚


「ほぼ1人でこのサービスを立ち上げた谷川は本当にすごいと思いました。日本の農業をどうにかしたいという思いは一緒で、やろうとしているビジネスの方向性も酷似していて、お互いの持っている強みは違うので補完関係にある。さらには、今後何があっても腹を割って話ができるなと思ったことから一緒にやろうと思いました。」と小林さん。
「OWNERSは先にサービスとして展開していましたが、会社経営のことと、資金のこととかそういうのは正直疎くて、小林さんと一緒にやることでそのあたりが一気に強くなりました。もちろんビジネスサイドで弱点の補完という面もありますが、何より同じ思いで仕事ができるのでそこが何よりです。」と谷川さん。

 2人は年齢も違えば今までのキャリアも全然違う。しかし日本の農業をなんとかしようという思いは一緒でそこに一切のズレはないという。そのため、今までケンカもなく、事業を進めるうえで障壁があってもそれは自分たちが成長する良い機会と捉えて日々の仕事ができているという。

手間のかかる野菜

 先程小林さんが話をしてくれたように、今後機械やAIなどによる大量生産の波は日本にも訪れるであろうと予測される。一方で、大量生産ではなく1つ1つ手間を掛けて作っている野菜や果物は減っていく可能性もある。しかしそれはピンチではなく、希少性が増すのであるからチャンスであるというのが2人の考え方だ。そのため、生産量が減っていくなら減っていくなりの戦い方をしないといけない、それは大きな市場に販売するのではなく自分たちの商品に対する価値を理解してもらえるファンをしっかり作っていくことであるという。

 野菜や果物に限った話ではないが一般的に商品は納品して始めて売上となる。工業製品のように安定して生産できる商品であれば、毎月の売上予測が立てやすいものの、農作物は気候の影響などを受けるためなかなか予想がつきにくい。例えば、雨が続き生産量が少なくなれば出荷できる量が減り、天候がよく豊作となれば単価が落ちてしまう。このように常に市場が気候に左右されてしまい、農家さんの収入も左右される。

 そこで、ファンを作り農家さんの収入に対する課題を解決するのがOWNERSである。OWNERSでは、予約販売というかたちになっており、できた商品を購入するのではなく、これからできる商品を購入するという仕組みである。まず購入する人は、サイト上から欲しい商品を選択する。そこで先に支払いを済まし、商品ができるのを待つ。待っている間もただ待つのではなく、それぞれの生産者から畑の様子、今年で出来具合など情報を受け取ることができる。そして、受け取りのタイミングも農家さんが最も美味しいと思われるタイミングで収穫、配送をしてもらえるため、受け取る側は最も美味しいタイミングで食べることが可能である。

 一方農家さんは先にお金が入ってくるし、納期などに追われることもなくじっくり手間をかけて美味しいものを作るということに集中ができる。そして何より、どんな人が自分たちの野菜や果物を待ってくれているのかが分かるためやる気にもつながるという。こうしてOWNERSでは消費者と生産者を商品でつなぐだけでなく、想いをつないでいる。

「今ではECサイトへの出店や、サイトの立ち上げは簡単にできますが、OWNERSは単に素早く売るとは真逆の売り方です。本質的に良いものを作りたい生産者、とことんこだわった食材を作り手と、そういったものを買いたいお客様のニーズを満たしたいと考えています。濃い関係性の価値はいろいろあるのですが、例えば、本当は7月末に取れる果物でも、天候の関係で最も美味しい時期が8初旬になりますという案内が通常のECサイトや小売店であると納期遅れで問題になります。しかしOWNERSでは逆で、本当に美味しい状態で届けるために時期をあえてずらしてくれたんだというふうに、お客様が思ってくれることもあります。実際に、こういうやり取りがあると、お互いの距離が縮まり、信頼関係が生まれ、その生産者さんのファンになってくれたりもするんです。」と谷川さんは説明してくれた。こうしてOWNERSでは今までの流通とは全く逆の発想で、生産者と消費者の架け橋となっている。


最後にOWNERSの今後について聞いた。今後は生産者さんの登録を増やすだけでなく企業との連携や、産地内で農家さんを支援する仕組みを作っていきたいという。
 まず企業との連携では、既に大手企業との連携し、OWNERS に登録した生産者さんの農産物は、OWNERSのサイト上だけでなく、既に会員基盤を持つ大手企業のプラットフォームの上でも販売を開始している。生産者は、プレミアムウォーター、三菱地所、アメリカン・エキスプレスといった会社が持つ多くの顧客に訴求でき、連携している会社側も、会員に対して新しい価値の提案ができ、双方に喜ばれる仕組みができている。

 さらに、おもしろい取り組みとしてはレストランとの連携である。レストランとOWNERSが特定の食材を介して連携し、食事をしたあと、その料理で使用されている食材がOWNERSで購入することができるというものである。レストランで食べて美味しいと思い、OWNERSを見ると生産者の思いやこだわりなど知ることができる。こうしてレストランでの食事をきっかけに生産者さんともつながることができるというものだ。

 またOWNERSにはFR (Farmer Relations) という役割の人が全国各地に居る。FR とは、農家さんに変わってその農産物の良さを見出したり、OWNERS 上で記事を書いたり写真を撮ったりして伝えていく役割のことで、産地在住のライターのようなイメージ。FRの方が代わりに記事作成や写真撮影をしてくれるため、説明や写真は苦手という農家さんもFRの方と一緒にOWNERSに出品することができる。
 FRには現状記事作成毎に対価が払われる形だが、将来的には売上に応じてマージンをもらえる仕組みにしていきたいそうだ。このような仕組みがあることで、個人で農家さんを応援したいと思っていてもなかなかできないという思いを具現化させていく。つまり農家さんを応援したいと思っている人にとってもOWNERSはプラットフォームの役割をもつのである。
 このようにOWNERSはただ生産者と消費者をつなげるだけでなく、想いを触媒に今後更に展開しようとしている。ただ、そこには日本の農業をなんとかしようという純粋な思いがブレずに存在している。ただのECではない、思いで人が繋がるOWNERS。今後がとても楽しみである。

株式会社ukka
http://www.ukka.green/

OWNERS
https://owner-style.com/

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