農人No.14 株式会社ファーマーズガイド 農業者にマーケティングを 中島慶人

今回は株式会社ファーマーズガイドの代表取締役である中島慶人さんを取材した。設立して間もない会社だが、他社との連携も次々と進めている。運営しているのは「チョクバイ!」というweb上のサービス。このサービスでは、全国にある直売所や生産者の情報、体験農園の情報が無料で掲載されており、スマホで簡単に検索が可能だ。直売所のデジタル活用を支援して、生産者と消費者の距離を近づけファンを増やす仕組みづくりにチャレンジしている。

農業のマーケティングを体系立てたい。
昨年9月にリリースされた「チョクバイ!」のwebサイトには現在全国の2600件を超える直売所や生産者が登録している。このサイトに登録することで、農業者は無料でホームページを持つことができ、ユーザーは直売所や農園を検索したり、応援メッセージを送ることができる。またレシピや食コラム、生産者紹介など、役立つ情報や農家さんへの思いが伝わってくる記事が満載だ。農業者にとって手間が少なく、使いやすいサービスとなっている。消費者からの声が届いて農家さんのモチベーションが上がり、より仕事が楽しくできるようになってほしいと考え、このサービスを作ったのだそうだ。

もともと中島さんは、大企業のPRやマーケティングに関わっていた。ある時、中島さんの転機になった出来事があった。それは、自宅近くにある畑に家族で果物狩りに行ったことだ。もともと家の近くにこのような場所があることは知らなかったのだそうだ。アクセスとしては普段通る道から脇に一本入れば見つかるのに、たまたま通りかかるまでこの農園を知る機会がなかったことを「もったいない」と思ったという。農業が身近にある地域でも、このような場所が家から少し離れたところにあることを知らないケースはよくあることだろう。

中島さんは祖父母が鳥取の農家であったこともあり、小さい頃は農業に触れる機会があったそうだ。社会人になり、改めて畑の楽しさに触れたことで農業への興味が増した。そこで、帰省した際に数十年ぶりに実家の畑を覗きに行ってみると、まさに耕作放棄地そのものだった。この光景を見て、言葉にならない寂しさを感じたという。ここから日本の農業課題と向き合い始めた。

農業の最大課題は価格決定権がないこと
農業に大きな課題があることを感じた中島さん。広告業界に関わっている視点から日本の農業の現状を深掘っていくと、農産物の売られ方に課題があることを見出した。「農家はいろんなものを作っていて作り方も異なる。画一均一ということはなくて本来、一つ一つが全く違うことが面白いんです。」そして中小規模の農家でも、生産と消費の距離を近づけることで生業としていけるような未来が実現できると考えた。

農産物販売の通販サービスが増えている今の農業ベンチャー界で、中島さんが目をつけたのは直売所だ。ここでいう直売所とは、地域で運営されている直売所や道の駅、観光農園、スーパーの産直コーナーなどを指している。

直売所には生産者が直接持ち込んだ野菜や果物が販売されている。市場にはあまり流通しないような珍しい生産物も販売されていて、店舗によっては年間何十万人もの人が訪れることも珍しくない。直売所目当てに遠方から足を運ぶ人もいるなど、人気を得ている。

その一方で、複数の生産者が持ち込むため、価格競争が発生しやすくなっており、隣の生産者の値段をみて値付けするということが当たり前になっている。直売所単位でブランディングに取組むケースはまだ少なく、どのくらいリピートされているかを測ることもできない。そこで、マーケティングという手法を農業者が取り入れ易い形で提供することで、直売所・生産者・消費者の三方良しを実現するというアイデアを考えついた。

直売所でどう売るか?
「直売所の役割は2つあって、生産者に対して販売力向上を支援することと、生活者の声を届けることです。」と中島さんは言う。
「販売力向上を支援するために、直売所ではまずPOPのクオリティを上げることが必要で、その先にファンを巻き込んでいくための継続的な情報発信が必要です。これらをオペレーションの負荷を上げることなく実行していくのに、デジタルの活用が有効だと考えています。例えば生産者が店頭に立たなくともQRコードを読み込むだけで情報が分かったり、リピーターがポイントカードに登録することで旬の情報が毎週メールで受け取れるといった仕組みを考えています。」

 生産者として、手間やコストをかけずに済みどのくらい自分の野菜がリピートして買われているかを見れるようになったり、今まで取れていなかった購買に関するデータや声を収集できるようになれば、販売に向けた新たな一手を手掛けられるようになるだろう。

農産物の販売方法に変化を起こしたい
 今後の展開としては、農業者にお金がもっと入る仕組みを作っていきたいのだそうだ。そのためには、農家と生活者との結びつきを一層強めていく必要があるし、より双方のニーズに求められているサービスに変化させていく必要がある。
「大きく業界を動かすには、農業界の仲間たちと手を組んでやることの方がより解決に近づくので、自前で全部やろうという考え方よりは他のプレーヤーと一丸となって農業界を変えていきたいです。」今の展開地域は千葉が多いので、これからは各地域にパートナーを作って広げていくのだそうだ。

今の農業界をどう思うか?
 「農業者がどんどん高齢化していることに課題感を感じています。先輩たちの胸を借りながら、次世代がリードする形で盛り上げることができたらいいなと思います。」
若手農家やベンチャーの台頭がメディアでは取り上げられていることが増えているので、勘違いしやすいが、現実では農業を営んでいる人の多くが65歳以上である。ここからファーマーズガイドのサービスがどこまで多くの農業者を巻き込んでいくのか、展開が楽しみだ。

最後に、農業者の方へのメッセージをお願いします
 今の時代は情報発信することが大切な時代です。まずは簡単なことからでいいので、発信を始めてみてください。消費者は地域の農業者のことをもっと知りたいと思っています。農産物というアウトプットだけではなく、その生産プロセスにこそ農業の魅力は隠れているはずです。「芽が出たよ」とか「花が咲いたよ」という成長過程を一緒に楽しんでくれる方が出てくれば、価格だけで選ばれるという状況は必ず変えられます。

 また、違う業界や違う考え方を持った人と話すことで新しい発想や取組が生まれることにつながるので、農業を家族に閉じず、外に開くということを心がけてみて欲しいです。

株式会社ファーマーズガイド
https://farmers-guide.jp/

チョクバイ!
https://choku-buy.com/