農研機構(岩手生物工学研究センター)は、放射性セシウムを吸収しにくい水稲の開発に成功したと発表した。
イオンビーム照射による突然変異法を用いることでタンパク質リン酸化酵素遺伝子に変異が生じることで根のセシウム吸収が従来の半分程度に減少する。
この結果イオンビーム照射による突然変異法を用いて栽培される新種のコシヒカリ(Cs低吸収コシヒカリ)では、コメの放射性セシウム濃度が半減することが分かった。
2011年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、放射性セシウムによる農地土壌の汚染が発生。土壌中から作物への放射性セシウムの移行を抑制するために、様々な施策が講じられてきた。
稲作においては放射性セシウムの吸収抑制に効果のあるカリ肥料の増肥を行うことで吸収を抑えることができている。
一方で玄米中の放射性セシウム濃度を基準値以下(100Bq/kg)にするために、土壌のカリ含量が25mg K2O/100g 乾土以上になるよう通常施肥に加え更にカリ肥料を増肥する必要性があり、コスト的面での改善が求められていた。
そこで農研機構では放射性セシウム吸収が少ない品種の改良を進め、コシヒカリにイオンビーム照射による突然変異法を用いることで、Cs低吸収コシヒカリの開発に成功した。
イオンビーム照射による突然変異法を用いるとイネの耐塩性に関わるタンパク質リン酸化酵素遺伝子(OsSOS2)の変異が起き、
セシウムの輸送体と推定されるカリウムトランスポーターを制御する遺伝子の発現が影響を受け、根のセシウム吸収が抑制されたと考えられる。
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構のデータを元に作成
また、Cs低吸収コシヒカリは従来よりも放射性セシウムの吸収が半分程度に抑制されるが、カリの増肥と組み合わせることで更に放射性セシウムの吸収が抑えられることが判明した。
Cs低吸収コシヒカリは放射性セシウム濃度が高まりやすい低カリ条件の水田で高い低減効果を発揮する。Cs低吸収コシヒカリの利用により、従来の栽培方法を変えずに、コメの放射性セシウム低減対策を長期にわたり実施可能となることを示唆している。