常温乾燥保存可能な昆虫細胞で強力に働く遺伝子のスイッチを発見

 26日、農研機構は理研とカザン大学(ロシア)と協力して、乾燥保存可能な昆虫細胞で大量のタンパク質を作り出すプロモーター※を見出したと発表した。このプロモーターは色々な昆虫細胞でも働くことが明らかになりになり、昆虫培養細胞を用いた有用物質生産等に利用されることが期待される。
※プロモーター:遺伝子の機能を発現させて、タンパク質を合成させるためのスイッチ

 昆虫細胞は室温で増殖可能な上、培養のために炭酸ガスが不要なため、哺乳動物細胞と比べて比較的簡便かつ安価なタンパク質合成系として知られている。Sf9細胞やHigh Five細胞などいくつかの昆虫細胞はワクチンなどの物質生産に利用されているが、ほとんどの昆虫細胞は応用利用されるまでには至ってない。

 例えば、干からびても死なない昆虫として有名なネムリユスリカから樹立した培養細胞 Pv11 は、1年もの長期間の常温乾燥保存が可能な細胞で、Pv11細胞に人為的にタンパク質を合成させて、細胞まるごと乾燥させることで、合成したタンパク質の活性を長期間乾燥保存が可能となる。しかし、Pv11細胞で働く従来のプロモーターでは、人為的に合成できるタンパク質の量はあまり多くなく、物質生産などに応用するには不十分であった。

 農研機構は、ネムリユスリカの遺伝子のプロモーターに着目し、Pv.00443と呼ばれる遺伝子の5’上流領域に大量にタンパク質を合成できるプロモーターが存在することを発見し、そのプロモーターを121と名付けた。
 
 121は既存のプロモーターと比べて極めて高いタンパク質合成活性を示し、Pv11細胞に発現させると、ネムリユスリカGapdhプロモーターの約800倍、昆虫細胞用の市販キットに含まれるIE2プロモーターの約1,500倍もの強力なタンパク質合成活性を示す結果となった。

 さらに121はネムリユスリカ以外の昆虫の細胞でも、タンパク質合成スイッチとして作動できることが分かり、S2細胞(キイロショウジョウバエ由来)、SaPe-4細胞(センチニクバエ由来)、Sf9細胞(ツマジロクサヨトウ由来)、BmN4細胞(カイコ由来)、Tc81細胞(コクヌストモドキ由来)で、市販キットで広く使われている昆虫細胞用プロモーターに匹敵するような高い活性を示した。

 昆虫細胞は室温で増殖可能な上、培養のために炭酸ガスが不要なため、哺乳動物細胞と比べて比較的簡便かつ安価なタンパク質合成系。本研究の成果は、”合成”と”保存”を両立する効率的な有用物質生産系の構築に貢献すると期待される。

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