今回紹介する農人は株式会社マーケットエンタープライズ(以下マーケットエンタープライズ)で中古農機具の買取販売を行う「農機具高く売れるドットコム」を運営する鈴木裕康さんと伊藤香純さんの2人。マーケットエンタープライズでは農業界への参入は初となるが、この事業を引っ張る2人に農機具の買取販売の思いをうかがった。
マーケットエンタープライズの事業内容
先ず初めにマーケットエンタープライズの事業内容を簡単に説明しておく。マーケットエンタープライズは2006年に設立し、2015年6月に東証マザーズへ上場。フィギュアや家電、楽器など不要になったものを買い取り、それらを販売する「ネット型リユース事業」を手がけている。全国に物流センターを持ち、バイヤーが買い取り査定を行い、それら商品をネット上の自社販売サイト「ReRe(リリ)」や、Yahoo!オークションなど様々なプラットフォームを利用して販売をしている。実店舗を持たないことから「ネット型」とWeb上での販売に特化していることが事業の特徴の1つである。
農機具の用語が分からないことからスタート
今まで多くの商材を扱ってきたマーケットエンタープライズだが、農機具の買取販売事業は初めての取り組みであり、今回の事業を推進する鈴木さんと伊藤さんは農機具の用語を調べるところからのスタートだったという。
「最初は本当に専門用語が分からず、買い取り査定に伺うと農家さんが正直どの部分のことを言っているか分からないときもありました。」と鈴木さんは話す。元々鈴木さんはゲーム会社でマーケティングの責任者を任されていたこともあって、バリバリのIT業界出身で、農業にはあまり関わる機会はなかったという。「今まで農業に関わる機会がなかったことが、逆にネガティブなイメージを持たずこの事業を開始することにつながったと思っています。IT×リアルというところが好きでマーケットエンタープライズに入社した経緯もあるため、むしろ楽しみでした。」と話してくれた。
鈴木さんに農業についてのイメージを伺ったところ、食糧というニーズの変動しにくいものを生産していることや、農機具など高額の設備投資を行っていることから農家さんの収入は安定していると思っていたとのこと。「しかし、この事業を始めてみると必ずしもそうではなく、跡継ぎがいなかったり兼業で農業をしている人が多かったりと課題が多いことを知り、なんとかしたいと思うようになりました。」と鈴木さんは話してくれた。
一方の伊藤さんは福島出身で周囲に農家さんが多く、親戚にも農家さんがいることから農業に対する状況はなんとなく分かっていたというが農業の事業に関わるのは初めてのこと。「入社してから元々コールセンターで、電話による事前査定を担当していたこともあって、今回のプロジェクトでも当初は仕組みづくりから電話での事前査定、販路開拓などを行っていました。農家さんがおっしゃっている用語が分からないことも多くて、電話中に調べたり、農家さんに教えてもらったりしながら知識を蓄積していきました。」と伊藤さん。
伊藤さんはメーカーの農機具の説明書を熟読しメーカーごとの特徴や用語などを覚え、電話で農家さんと話をするなかで知識をインプットしていった。
今でこそ、農機具に関してかなり詳しい2人であるが、農業に関わったことはなく用語も分からないところからの船出であった。
徹底した農家さん目線
「農家さんと話をしていくと、色々なことが分かってきました。例えば農家さんの中にはシャイな方も多く農機具の見積もり査定の相談をためらってしまう方がいるということも分かりました。」と鈴木さん。鈴木さんによると「このトラクターはもう売り物にならん、売り物にならんものをわざわざ査定してもらうのも悪いな・・・」と査定をためらってしまう方も少なくないという。
そこで、農機具の種類、メーカー名、型番、稼働時間を入力するだけで大凡の買取価格を見積出来る仕組み「自動査定システム」をサイト内に追加した。本来、自動査定サービスは運営側のオペレーションの簡素化や、問い合わせ件数を増やすために用いられるケースが多いが、農家さんのそのような性格を鑑みて追加した機能だという。
また電話での事前査定をしている伊藤さんは「電話で農家さんに色々とお話を伺うようにしています。私たちはできる限り高く買い取りたいという思いが強いので、少しでも高く買い取れる方法があればご提案するようにしています。」と話してくれた。
例えば、買取時にどこかが壊れている場合、「どうせ価値が下がって売れないだろう」と考えがちだが、日本製の農機具は性能がよく耐久性が高く作られているため故障していたとしても、需要がある農機具なら売却が可能なのだという。「売れるかどうか不安な方は一度、お電話で相談していただければ、買い取れないか、または買い取る方法がないかご提案できるよう努力します。」と伊藤さんは語る。
このように徹底して農家さんの目線に立ちサービスを改善している2人。「もっと農家さんの声を聞いてサービスを改善していきたいです。」と鈴木さんは話してくれた。
最適化という橋渡し
マーケットエンタープライズでは今まで培ってきたノウハウを活かし、買い取った農機具が売れるように様々なチャネルで販売をしているという。販売先には新規就農した若い農家さんや、日本製の農機具の需要が高い海外に輸出している会社など様々存在する。
例えば、新規就農すると土地の賃貸契約、農機具、農業資材の購入、苗や種の購入などかなりのコストがかかる。そこで中古の農機具であれば新品の農機具を購入よりもイニシャルコストを抑えることができる。また、日本ではあまりニーズがない10年以上前の農機具であっても東南アジアでは相当ニーズがあることもあり、農業の発展途上国では日本の中古農機具は非常に喜ばれる。
「単純に農機具を高く売るということではなく、しっかりその農機具を使ってくれる、その農機具が役立つという方に販売していきたいと思っていますし、そういう意味ではまだまだ伸びしろもあると思っています。」と鈴木さん。
「農家さんはいくらで買い取ってくれるか?ということもそうですが、売った農機具を誰が使ってくれているか?ということも気になっているようです。もちろん個人情報もあるので具体的には言えませんが、新規就農した人が使ってくれている、海外で活躍しているとか農機具を売ってくださった農家さんに伝えることもあります。」と伊藤さんは話してくれた。
「より農機具を必要としている人に販売することで、新規就農をする人のサポートや海外の農家さんの支援になります。また最適な販売先に売ることができればもちろん高く売れます。ということは農家さんにより多く還元することができますから、売却した農家さんがまた新しい農機具を買う原資ができる。最終的には農業界全体を支援するということにもつながると思います。」と鈴木さん。
「ご高齢の農家さんが農業を引退して農機具の売先に困っていることもありますが、農機具は安いものではありませんし思い入れのあるものです。だからこそいくらで買い取るという価格のことだけでなく、想いや買い取ったあとのこともしっかりお話するようにしています。」と伊藤さんは話してくれた。
農機具の中古買取と販売は世間一般的には「再販」と言われる事業である。しかし、ただ再販するということではなく、必要と思ってくれる人に対して商品を提案するという「橋渡し」という表現のほうがこの事業の呼び方としては正しいと感じた。
農機具販売の今後、競合ではなく共存へ
今後は先ず買い取る農機具の量を増やし、販売先をより最適化していくことが目標になるという。そのためには直ぐに売りたいという方だけでなく、今後売る可能性がある人や、納屋で農機具が眠っている人などの潜在層にもアプローチしていきたいとのこと。
「ただ、マーケティングという言葉でリーチすることだけを考えると、どうしても無機質になってしまいます。だからこそ電話や現地での査定など対面でのコミュニケーションを大切にしながら、農家さんと二人三脚でやっていきたいと思います。」と鈴木さんは話してくれた。
また、農機具の中古買取や販売となると様々な組織、団体、企業と競合することもあるという。しかし、そのような団体たちと競合をするのではなく協業することで、より高く買い取り、必要な人に販売するスキームを作っていくとのこと。例えば、農家さんからの買取が最も得意とするところだが、海外への販売となるとそれを専門としている会社のほうが強い。だからこそ、双方の強みを合わせることでより最適な販売先が提供できるし、選択肢も増える。そのため現在、個人、会社に関わらず積極的にアライアンスパートナーを募集している。これもまさに農家さんのためを思う視点での取り組みである。
常に農家さん目線、そして最適化という橋渡しを意識している2人。この2人が農機具販売の中心となり共存という「輪」を広げながら日本の農業を支えていくこととなるのだろう。
農家さんへの2人からメッセージ
最後に2人に農家さんへのメッセージをうかがった。
「安心の農機具買取サービスとして、本当に必要としてくれる人に農機具をつなげていきたいと思っています。不要と思っている農機具も日本だけでなく世界にまで目を向けると必要と言ってくれる人は多くいます。処分してしまう前に気軽にご相談してくださるとうれしいです。」
編集部後書き
「ネット型リユース事業」で成長するマーケットエンタープライズ。そこには最適化されたオペレーションと仕組みがあり、そのノウハウを持って農機具買い取りも成長してきたのだと思った。実際話を聞いてみるとオペレーションだけでなく、農家さんの視点にたったヒューマンな取り組みがこの事業の最もコアな強みであった。徹底的な農家目線で、より必要としている人への販売という橋渡し、ただのリユースではない熱い思いが2人にはあった。
株式会社マーケットエンタープライズ
http://marketenterprise.co.jp
農機具高く売れるドットコム
https://www.noukigu-takakuureru.com